医者のイラスト 高血圧の薬物療法は、患者様のリスクの度合いによって基本療法である食生活改善と生活習慣改善に加えて行われます。

本記事では、「薬物療法を選択する条件」、「高血圧の降圧薬(西洋医薬)について」、「補助的に処方される漢方薬」、この3つのテーマを中心に高血圧の薬物療法について解説します。

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薬物療法を選択する条件

まず、日本高血圧学会の「高血圧治療ガイドライン2019」に基づいて患者様のリスク度合いを仕分けます。
「高血圧治療ガイドライン2019」では、患者様の高血圧リスクを横軸の血圧分類と縦軸のリスク層で低リスク、中等リスク、高リスクに分類できます。

このリスク度合いの仕分けで、程度の軽いⅠ度高血圧以上であっても高リスクにあてはまる患者様には、最初から生活・食事指導とともに薬物療法が選択されます。
低リスク、中等リスク、高値血圧の高リスクにあてはまる患者様には、食生活改善と生活習慣改善を1ヶ月間行い、改善が見られなければ薬物療法を開始します。

横軸の血圧分類 :

高値血圧:
130~139 / 80~89mmHg
Ⅰ度高血圧:
140~159 / 90~99mmHg
Ⅱ度高血圧:
160~179 / 100~109mmHg
Ⅲ度高血圧:
180以上/ 110以上mmHg

縦軸のリスク層:

リスク第1層:
予後影響因子がない
リスク第2層:
65歳以上、男性、脂質異常症、喫煙のいずれかにあてはまる
リスク第3層:
脳心血管病既往、非弁膜症心房細動、糖尿病、蛋白尿のある慢性腎臓病のいずれかにあてはまる、またはリスク第2層の危険因子が3つ以上ある
高値血圧Ⅰ度高血圧Ⅱ度高血圧Ⅲ度高血圧
リスク第1層低リスク低リスク中等リスク高リスク
リスク第2層中等リスク中等リスク高リスク高リスク
リスク第3層高リスク高リスク高リスク高リスク
日本高血圧学会 「高血圧治療ガイドライン2019」よりデータを抜粋

高血圧の降圧薬(西洋医薬)について

高血圧の薬物療法では血圧を下げる降圧薬を処方します。
多くの種類がある降圧薬の中から、患者様の高血圧リスク、年齢、体質、病歴・その他の病気の有無などを考慮して使用する降圧薬を決めます。

よほどリスクが高い場合以外は1つの降圧薬から効果を試して、経過観察しながら必要に応じて他の降圧剤を加えるか、降圧剤の投与量を増量または減量します。
また、処方した降圧薬に効果が見られなければ使用中止して、他の降圧薬を処方する必要があります。
そのため、患者様は血圧を適正に維持できているかどうか確認するために、家庭血圧を継続して測定記録し、医師に報告していただくことが大切です。

城内病院ではおもに以下の降圧薬を処方することが多く、それぞれの薬剤を上手に複合させることで治療効果は上がります。

カルシウム拮抗薬:
血管を拡張して血圧を下げる。血管はカルシウムの流入で収縮するので流入をブロックする。狭心症、糖尿病、高齢者に効果。
ACE阻害薬:
血管を収縮させるアンジオテンシン酵素の働きを阻害し血管を拡張させることで、血圧を低下させる。慢性腎臓病、糖尿病、冠動脈疾患、心不全の方に効果。
ARB:
昇圧物質であるアンジオテンシンⅡがくっつく受容体に先にARBがくっついてブロックすることで血圧を低下させる。糖尿病、慢性腎臓病に効果。比較的副作用が少ない。

他に塩分制限が必要な場合は腎臓から塩分と水分を出すことで血圧を下げるサイアザイド系利尿薬、心臓の過剰な働きを抑えて血圧を下げるβ遮断薬、交感神経の血管への作用を抑えて血圧を下げるα遮断薬、血圧上昇や臓器障害に関連するアルドステロンに拮抗し効果を発揮するK保持性利尿薬などを必要に応じて加えることもあります。

降圧薬の副作用について

他の薬と同様に、降圧薬にも副作用はあります。しかし、薬の開発段階で副作用の少ないもの、降圧効果が副作用を上回る薬が認可されています。

また、処方した降圧薬の副作用が患者様に出ていないかを血液検査などで必ずチェックします。
強い副作用が出て生活を脅かすようであれば、使用を中止して他の降圧薬に変更します。

カルシウム拮抗薬:
投与初期の顔のほてり、頭痛、動悸、便秘など。
ACE阻害薬:
咳が出る、高カリウム血症、腎臓障害がある方は腎動脈の狭窄が進むことがある。
ARB:
高カリウム血症など。比較的副作用が少ない。
利尿薬:
糖尿病が悪化することがある。尿酸値が上がる。脱水症状が進む。

薬物療法で下げる血圧の目標値は?

薬物療法で下げる血圧の目標値は、降圧目標として年齢や病歴によって設定されています。

75歳以下の成人・脳血管障害患者(両側頸動脈狭窄や脳主幹動脈閉塞なし)・冠動脈疾患患者・慢性腎臓病患者(蛋白尿陽性)・糖尿病患者・抗血栓薬服用中の方:
目標値:診察室血圧が130 / 80mmHg未満、家庭血圧が125 / 75mmHg未満。
75歳以上の高齢者・脳血管障害患者(両側頸動脈狭窄や脳主幹動脈閉塞あり、または未評価)・慢性腎臓病患者(蛋白尿陰性)の方:
目標値:診察室血圧が140/ 90mmHg未満、家庭血圧が135/ 85mmHg 未満。

降圧目標を達成して、塩分摂取を目標量以内、10kg減量成功、生活習慣改善の3つの条件を満たした患者様は、徐々に降圧薬を減らし最後には服用をやめても血圧が上がらなければ、薬物療法を終了することも可能です。

薬物療法は終了しても、減塩などの食生活や継続的な運動などの生活習慣は永続的に続けていただく必要があります。

高血圧の薬物療法に使う漢方薬とは?

基本的に西洋医薬中心の高血圧の薬物療法。西洋医薬に併せて補助的に漢方薬を処方することがあります。
漢方薬には西洋医薬にはない効果が期待できるからです。

漢方薬を補助的に処方するおもな症状:頭が重い、顔がほてる、動悸がする、更年期障害でイライラする、頻尿・排尿困難など。

漢方専門医の診断で患者様の体質にあった漢方薬が処方されます。また、処方される西洋医薬と漢方薬のマッチングも考慮に入れます。
高血圧の薬物療法で西洋医薬に併せて補助的に処方されるおもな漢方薬を紹介します。

釣藤散(ちょうとうさん):
慢性頭痛、肩こり、めまい
大柴胡湯(だいさいことう):
ストレスが多くて太鼓腹、脇腹からみぞおちあたりが苦しい、便秘気味
防風通聖散(ぼうふうつうしょうさん):
皮下脂肪が多く肥満の方の減量目的
柴胡加竜骨牡蛎湯(さいこかりゅうこつぼれいとう):
不安が強い、動悸、不眠
牛車腎気丸(ごしゃじんきがん):
疲れやすい、手足の冷え症、頻尿・排尿困難