理学療法士のイラスト現在、認知症の治療薬も研究・開発されていますが、今のところ中核症状を改善する治療薬はありません。
環境整備や関わり方、生活療法、レクリエーションなどを積極的に患者様に提供すると、周辺症状を出さなくてもすむため、人的・物理的環境を提供することが認知症治療の主流となっています。
そうした意味から作業療法などのリハビリテーションの果たす役割は大きいといえます。

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認知症とは?

現在、認知症は「いったん正常に発達した知的機能が、その後に起こった慢性の脳の器質的障害のために広汎に機能的に低下してしまった状態」と定義されています。

器質的障害
脳の萎縮や神経細胞の障害、脳出血や脳梗塞など不可逆的な変化により、慢性的に進行する疾患群の総称です。

認知症の症状について

認知症の症状は大きく分けて中核症状と周辺症状の2つに分かれます。

中核症状

認知症であれば必ず伴う認知機能障害。

財布と鍵を忘れた高齢者のイラスト
  • 記憶障害
  • 判断力低下
  • 時間や場所が分からないといった見当識障害。
  • 目的の手順や段取りが出来なくなる遂行機能障害。
  • 失語や失認などの高次脳機能障害。

周辺症状

認知症があるからといって必ずみられる症状ではなく、認知症の進行に伴い出現したり消失したりする症状。

徘徊する高齢者のイラスト
  • 妄想 幻覚
  • 抑うつ気分 不安
  • 睡眠障害
  • 誤認
  • 攻撃 興奮
  • 徘徊

認知症に対する作業療法の役割

認知症にかかわる作業療法士のおもな役割。

  • 心理面の安定を図る。
  • 日常生活および応用動作能力の自立を図る。
  • 社会的機能の向上を図る。
  • 生活の質の向上を図る。
  • 廃用症候群の予防。

認知症に対する作業療法のアプローチ

認知症に対する作業療法のアプローチにはさまざまな方法があります。認知症の進行程度や症状に応じたアプローチを選択します。

回想法

高齢者が自分のこれまでの人生を振り返り整理し、その意味を深く考えようとする自然で普遍的な心理過程で、生活の質の向上や精神的・情動的な安定を目的とするアプローチです。
昔の歌・活動・物品を通して行われる「一般回想法」と、個人の生活史に焦点を当てていく「ライフレビュー」の2つに大きく分かれます。

バリデーションセラピー

バリデーションとは「確認する、強くする、認める」の意味。
患者様が認知症により混乱したり偏執狂的になったり妄想を抱いたりしても、しっかりとしたコミュニケーションをとることで、人間性を最大限に尊重しその人全体を理解するための関わり・実践です。

現実見当識訓練

見当識とは「今の時間」「今いる場所」「目の前にいる人は誰なのか」など、自分の置かれている状況や周囲との関係を結びつけて考えることのできる機能のことです。

見当識訓練とは高齢者に対し時間・場所を問わず、様々な場面で日時・場所・人物の情報を繰り返し教示する方法です。
また、生活空間内でも正しい見当識が持てるような配慮(大きな時計を付ける、大きく所在地を書いておく、スタッフの顔写真と名前が書かれたボードを置くなど)も必要です。

モンテッソーリ・アクティビティ

社会・認知・実用的応用能力を身につける目的で開発され、自発的活動の重視、独自の教具による感覚訓練、日常生活の訓練を重視した手法です。
自ら課題を成し遂げたことによる満足感や達成感が報酬となることで、周囲の環境により学習し作られた無気力を防ぐとともに、日常生活動作の向上にもつながるとされています。

認知症の音楽療法

BGMや音楽鑑賞などを通して、心身のリラクゼーションや機能の回復・維持が目的です。
また好きな音楽や心地よい音楽を聴くことで脳波・脈拍・発汗に変化が起こり、臨床的には気持ちが落ち着く、痛みや不安も和らぐという効果も報告されています。

認知症の園芸療法

草花を育てる一連のプロセスによる療法です。

身体面の効果

身体を動かして園芸作業を行うことで運動機能が回復される。草花の大きさ・香り・色などで五感が刺激される。

精神面の効果

自分が世話をしたから育ったという責任感や達成感を味わえることで、自分の存在価値が自覚できてプライドの回復や生きがいにつながる。
自分以外のものに対する愛情や興味が芽生える。人と作業を行うことで多くのコミュニケーションがとれる。