高齢者が骨折すると寝たきりや要介護状態になることがあります。高齢者にとって危険な病気の1つである骨折の最大の原因は転倒です。
つまり、骨折しないためには転倒しないことが1番の予防策なのです。

城内病院リハビリテーション部作成の本記事では、転倒の原因、注意すべきこと、転倒予防のため3つの運動を紹介します。

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高齢者が転倒してしまう原因は?

自分では大丈夫と思っていても、高齢者が転倒する原因はとても多く存在します。

  • 老化により視力が低下することで、椅子やテーブルの脚、ドアの敷居やカーペットなどにつまずいてしまうこと。
  • 視野が狭くなることで空間的認知能力(歩行時に障害物となりそうな壁や物などの形状を把握する能力)の低下。
  • 老化によるバランス能力低下で、つまずいたときに姿勢を立て直すことが出来ない。
  • 薬の副作用などにより睡眠障害、記憶障害、認知障害などが生じて、転倒につながる可能性が高まる。

転倒しないために注意すべきことは?

高齢者は老化によって、身体機能が低下している可能性があります。日常生活において、転倒しないために注意すべきことを常に心がけるだけでも、リスクを軽減できます。

  • つまづかないように、電化製品のコードを短くまとめる。壁にはわせる。
  • 室内では、すぐに脱げてしまうスリッパやサンダルはなるべく控えましょう。
  • 室内で暗い場所を通る機会を減らしましょう。照明などを用意し、足元に何があるのか把握しやすくする。
  • イスなどに座る際は、座面の高さ、手すりの位置、腰を下ろすにはどのぐらいの距離があるのかを感覚ではなく、実際に目で見て確認しましょう。
つまずき防止のアイデアイラスト

自宅でできる3つの転倒予防運動

自宅でできる転倒予防のための運動を紹介します。
普段使っていない筋肉を訓練することは、転倒予防だけでなく、バランス能力の向上や脳への血流促進(脳の活性化に繋がるため)などのメリットがあります。

無理をしない範囲で、根気よく運動を継続することで、骨折につながる転倒を予防しましょう。

お尻と太ももの筋力向上のための運動

高齢者は、老化にともない背骨が曲がってしまうことが多くあります。背骨が曲がると歩幅が狭くなり、お尻や太ももの筋力や股関節の可動性が低下し、転倒などにつながる可能性が高まります。

股関節伸展運動

お尻の筋力向上と股関節の後方への動きを促進するための運動

方法
立って肩幅に脚を開く。体の前に壁やイスの背もたれなどを用意し、両手で支えバランスが崩れても倒れないように。その状態で、片方の脚を浮かせ後方へ動かす。
胸ストレッチの解説写真1
1.スタートポジション
胸ストレッチの解説写真2
2.正しい運動
胸ストレッチの解説写真1
誤った運動①上半身が前に倒れている
胸ストレッチの解説写真2
誤った運動② 右足が外側に向いている
注意点
上半身をなるべくまっすぐに。前方や側方にバランスが倒れると腰痛に繋がる。お尻の筋肉をしっかりと鍛えるためには、足先が外側に向かないように。お尻の筋肉をしっかり鍛えないと、歩行時にがに股(O脚)になる可能性がある。
呼吸は止めないようにしましょう。
回数
両足、1日に10回を1セットとし、3セット行うことを目標に。

大腿四頭筋の筋力訓練:太ももの筋力向上のための運動

方法
椅子に腰掛け、両足の足底面を床につけ、片脚ずつゆっくり膝を伸ばし、ゆっくり元に戻す。
亜急性期のリハビリ 椅子に座って膝を伸ばす運動の方法1
1.スタートポジション
亜急性期のリハビリ 椅子に座って膝を伸ばす運動の方法2
2.膝を伸ばした状態
注意点
心肺機能の負荷を軽減するため、呼吸を止めないようにすること。
膝を伸ばす太ももに力を入れるようにイメージすると脳の機能を活性化させることができ、脳萎縮や認知症の予防にもなる。
回数
両足、1日に10回を1セットとし、3セット行うことを目標に。

転倒予防のためには、足指の把持能力を向上させましょう

立った状態で、重心を足指の方(前方)へ移すと、体が前方に倒れないように足指に力が入ります。これを足指の把持能力といいます。
足指の把持能力は、つまずいたりしてバランスが崩れたときに、一番始めにバランス制御の働きをします。バランスをとるために非常に重要なものだと考えられています。

たとえば、有名なゴルフ選手も地面のコンディションが悪い場合、スイング前に靴の中で足指を曲げる運動を行い、体のバランス能力を向上させているそうです。

足指の把持能力が向上すると、バランスが不安定な場合でも、地面と接地している足指が、転倒しないようにバランスをとります。足指の把持能力が向上するタオルギャザー運動を行ない、転倒を予防しましょう。

タオルギャザー:足指の把持能力を向上させる運動

方法
椅子などにすわり、床にタオルを広げる。タオルの上に、重りの代わりとする水を入れたペットボトル(500ml)を置く。足指を使って前方もしくは側方からタオルを引く。
急性期のリハビリ タオルギャザーの前方の運動の方法1
1.スタートポジション
急性期のリハビリ タオルギャザーの前方の運動の方法2
2.前方から引き寄せる運動
急性期のリハビリ タオルギャザーの側方の運動の方法1
1.スタートポジション
急性期のリハビリ タオルギャザーの側方の運動の方法2
2.側方から引き寄せる運動
注意点
500mlでタオルを手繰り寄せるのが難しい場合は、250mlで行いましょう。まずは、継続できる負荷量で行うことが一番大事です。
膝関節の運動になってしまわないように、しっかり踵(かかと)を床につけておくこと。
回数
両足、前方側方それぞれ1日に5回を1セットとし、3セットを目標に。

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