変形性股関節症や大腿骨頸部骨折の治療として人工股関節置換術があります。この人工股関節置換術では、置換した関節が正常の股関節に比べかみ合わせが浅いため、ある一定の角度以上曲げたり捻ったりすると脱臼することがあります。

今回のリハビリ部作成記事では、人工股関節置換術の術後に起きやすい脱臼予防のために、脱臼しやすい動作と日常生活において注意すべきことを紹介します。

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股関節の仕組みと役割について

股関節は、大腿骨の先端にあるボール状の大腿骨骨頭と骨盤側の受け皿となる臼蓋(寛骨臼)で形成されています。
股関節は球(きゅう)関節といい、単一の方向で動くという事はほとんどなく、多くは2つ以上の動作が複合して動いている関節となっています。
また、股関節は上半身を支え下半身を動かすという重要な役割を担っています。

人工股関節置換術とは?

人工股関節置換術とは、損傷してしまった股関節を取り除いて人工関節に置き換える手術です。
人工関節の構造は、大腿骨側はヘッドとステムの2つのパーツから構成され、骨盤側はソケット(カップ)と呼ばれる半球状のものでヘッドの受け皿となっています。

人工股関節置換術の主な適応疾患は、変形性股関節症や大腿骨頸部骨折です。
軽症で骨盤側の機能が残存している場合は、大腿骨側のみを人工のものに置き変える人工骨頭置換術も適応となることがあります。

人工股関節置換術後に脱臼しやすい動作とは?

人工股関節置換術後の合併症の1つとして「脱臼」があります。
人工関節に置換した関節は正常の股関節に比べかみ合わせが浅いため、ある一定の角度以上曲げたり捻ったりすると脱臼することがあります。

脱臼リスクが高い動作は、足を「過度に曲げ伸ばす」、「捻る」、「内側に入れる」などです。日常生活において、これらの脱臼リスクが高い動作をしないように注意が必要です。

※ 写真は全て右足患側で想定しています。

人工股関節置換術後に脱臼しやすい過度に曲げ伸ばす状態の写真
過度に曲げ伸ばすと脱臼しやすい
人工股関節置換術後に脱臼しやすい捻る状態の写真
捻ると脱臼しやすい
人工股関節置換術後に脱臼しやすい内側に入れる状態の写真
内側に入れると脱臼しやすい

人工股関節置換術後の脱臼予防 ~日常生活での注意点~

※ 写真は全て右足患側で想定しています。

寝る時の注意点

寝る時の姿勢として、横向きで寝る際は手術した方の足が下にならないようにします。
手術した方の足を上にする際も、足が内側に入りやすいため、足と足の間に枕やクッションを挟むことで、脱臼の予防をすることができます。
ベッドで寝ることも脱臼の予防になります。

人工股関節置換術後に手術した足を上にして横になった状態の写真
手術した足を上にする際も足が内側に入りやすいので要注意
人工股関節置換術後に手術した足を上にして枕やクッションを挟んで横になった状態の写真
手術した足を上にする際は足の間に枕やクッションを挟むと良い

座る時の注意点

座る時は床ではなく、椅子を使用することをおすすめします。椅子を選ぶ際も、低めの椅子は股関節が曲がり過ぎるため、曲がり過ぎない程度の椅子を使うようにしましょう。

人工股関節置換術後に低めの椅子に座った状態の写真
低めの椅子は股関節が曲がり過ぎるため要注意
人工股関節置換術後に丁度よい高さのの椅子に座った状態の写真
膝が曲がり過ぎない程度の椅子を使うようにしましょう

着替えの時の注意点

ズボンやパンツを着脱する時は腰かけましょう。
ズボンやパンツを履くときは、手術した方の足から履いて下さい。
手術した方の足先にズボンやパンツを通す際は、足先に直接手を伸ばさず、マジックハンドなど道具を使用しましょう。
脱ぐ時は先に手術していない方の足から脱ぐようにしてください。

入浴時、浴槽を跨ぐ際の注意点

お風呂の中は滑りやすいため、注意が必要です。
浴室内の椅子は股関節が曲がり過ぎない程度の高さのものにしましょう。
お風呂場での立ち座りの際は手術した方の足を少し前に出して行います。
浴槽内にも低めの椅子を置くことで立ち座りがスムーズになり、股関節の負担が減ります。

浴槽を跨ぐ際は股関節が曲がり過ぎるため、1度浴槽の縁などに腰かけて跨ぐようにします。
浴槽に入る時は手術していない方の足から。出る時は手術した方の足から跨ぐようにしましょう。その際には滑らないように壁や手すりにつかまってください。

床の物を拾う時の注意点

前かがみやしゃがむ姿勢は股関節が曲がり過ぎるため、マジックハンドなどの道具を使用して拾うようにしましょう。

トイレでの注意点

和式トイレは股関節が曲がり過ぎ足への負担も大きいため、洋式トイレを使用してください。

移動する際の注意点

歩く際の制限は特にありませんが、不整地を歩く時や平地でも長時間歩く時は、杖や押し車を使用して股関節の負担を減らすようにしましょう。

段差・階段昇降の際の注意点

段差や階段の昇降時は足を出す順番が大切です。
昇りは手術していない方(良い方)から、降りは手術した方(悪い方)から。
1段ごとに両足を揃えることで足の負担を減らすことができます。

人工股関節置換術後に階段を手術していない方から登る写真
昇りは手術していない方(良い方)から
人工股関節置換術後、1段ごとに両足を揃えて階段を登る写真
1段ごとに両足を揃えて足の負担を減らす

靴や靴下の着脱時の注意点

靴や靴下の着脱時は、腰かけた状態であぐらをかくようにして行いましょう。
靴ベラなどの道具を使用するのも1つの方法です。

人工股関節置換術後に腰かけた状態であぐらをかくようにして靴や靴下を着脱す写真
腰かけた状態であぐらをかくようにして靴や靴下を着脱する