高齢者にとって、骨盤骨折は骨粗鬆症や転倒などが主な原因となり、日常生活に大きな影響を及ぼす可能性がある重要な問題です。
高齢者の骨盤骨折は、診断が難しいケースがあるため、その症状や原因、診断法、治療法、および予防策について理解を深めることが極めて重要です。
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高齢者の骨盤骨折の検査・診断が難しい理由
高齢者の骨盤骨折は、特に以下の理由から診断が難しいとされています。
- 明らかな外傷がないケース:
骨粗鬆症が要因となる骨盤骨折は、大きな外傷や明らかなケガがないにもかかわらず発生することがある。骨密度の低下により骨が脆くなっているため、軽微な外力でも骨折が生じやすくなるため。 - 初期症状が他の疾患と似ている:
骨盤骨折の初期症状は、腰痛や坐骨神経痛、大腿骨近位部骨折(股関節の骨折)と似たような症状があるため、見分けがつきにくく診断が難しい。 - 画像診断での発見が困難なケース:
骨粗鬆症を伴う高齢者の場合、受傷当初は骨のずれ(転位)が小さかったり、全くなかったりすることがある。そのため、単純なX線検査(レントゲン)やCTスキャンでは骨折が確認できない場合は、数日後に繰り返しX線撮影を行ったり、MRIによる詳細な検査が診断に有用となる。
高齢者の骨盤骨折の症状
高齢者の骨盤骨折では、以下のような症状が現れることがあります。これらの症状が見られた場合は、速やかに医療機関を受診することが重要です。
- 腰や臀部、鼠径部(足の付け根)の強い痛み:
体を動かす際に痛みが増す傾向がある。 - 歩行困難:
骨盤は体を支える重要な部位であるため、骨折によって痛みや不安定性が生じ歩行困難になる。 - 下肢のしびれや感覚障害:
骨盤の周囲には重要な神経が通っており、骨折によってこれらの神経が損傷されることで、足にしびれが生じたり、感覚が鈍くなったりすることがある。 - 排尿・排便障害:
骨盤の近くには膀胱や直腸に関わる神経が存在するため、神経が骨折の影響を受けると、排泄機能に問題が生じることがある。
高齢者の骨盤骨折の主な原因
骨粗鬆症によって骨が脆くなっている高齢者は、日常生活での転倒という比較的軽微な外力でも骨盤骨折が生じやすくなる傾向が見られます。
高齢者の骨盤骨折の主な原因は以下の通りです。
- 骨粗鬆症:
骨密度の低下により骨が脆くなり、軽微な外力でも骨折しやすくなる。 - 転倒:
日常生活における転倒は、高齢者の骨盤骨折の最も大きな原因の一つ。 - 交通事故や高所からの転落:
事故や転落による高エネルギー外傷によっても骨盤骨折は発生する。
骨盤骨折の検査・診断
骨盤骨折の正確な診断には、複数の画像検査を組み合わせて使用しますが、患者様が高齢者のケースでは検査・診断が難しいことがあります。
- X線検査(レントゲン):
骨折の有無や大まかな位置を確認する。 - CTスキャン:
骨折の詳細な状態や周囲の組織への影響を立体的に評価するのに有用。 - MRI(磁気共鳴画像):
骨だけでなく、軟部組織(靭帯、筋肉、神経など)の損傷を詳しく調べる際に使用され、X線やCTでは見えにくい微細な骨折の検出に有効。
骨盤骨折の治療法
骨盤骨折の治療法は、骨折の種類や重症度、患者様の全身状態によって異なります。
骨盤骨折の保存的療法は軽度の骨折や安定した骨折の場合に選択されます。保存的療法の長所は非侵襲的であることですが、長期の安静による筋力低下、肺炎、褥瘡などの合併症リスクが高まる問題点があります。
手術療法は骨折が不安定であったり、骨片が大きくずれている場合に検討されます。手術後も、早期からのリハビリテーションが非常に重要であり、筋力の回復や日常生活への復帰を目指します。
骨盤骨折の保存的療法
- 安静:
痛みが治まるまで安静にし、骨の自然治癒を待つ。 - 鎮痛剤の使用:
痛みを和らげるために適切な鎮痛薬を使用する。 - リハビリテーション:
筋力低下を防ぐため、痛みが許す範囲で早期からのリハビリが必要。
骨盤骨折の手術療法
- 固定術:
金属プレートやスクリューなどを用いて骨折した骨片を固定し、安定性を高める。 - 人工関節置換術:
関節面や軟骨の損傷が高度で、大腿骨近位部骨折などを合併する場合には、人工股関節置換術が検討されることがある。
骨盤骨折の予防と日常生活での注意点
高齢者の骨盤骨折は、早期の診断と適切な治療が患者様の生活の質を維持するために極めて重要です。日頃からの予防策を実践し、健康的な生活を維持することが、骨折のリスクを減らす鍵となります。
高齢者の骨盤骨折を予防するためには、以下の点に注意し、日常生活で対策を講じることが大切です。
- 転倒予防:
室内の段差をなくす。手すりを設置する。滑りにくい靴やスリッパを履く。 - 骨粗鬆症の管理:
カルシウムやビタミンDを積極的に摂取し、適度な運動、日光浴を心がける。必要に応じて医師の指導のもと骨粗鬆症治療薬の服用を検討することも重要。 - 定期的な健康診断:
骨密度の測定を定期的に受け、骨粗鬆症の有無や進行度を確認し、医師の指導を受けることで、骨折のリスクを低減する。