眠たい女性のイラスト不眠症の薬を使わない治療法(非薬物治療)”では、睡眠時間にこだわりすぎないこと、不眠の原因を取り除くために生活習慣や睡眠環境を改善する方法を紹介しました。

不眠症の治療において、まず行うべきは医師の指導のもとで行う非薬物治療ですが、実際の治療の現場では睡眠薬を用いた薬物治療が中心です。
睡眠薬には、依存性や副作用などのマイナスのイメージを持つ方がいらっしゃると思われますが、研究により薬剤の有効性と安全性が向上し、現在病院で処方する睡眠薬は、依存性や認知機能障害の心配が少ない薬になっています。
医師の指導のもとで正しく服用すれば過度の心配はいりません。

また、医師は患者様の症状・不眠のタイプ・生活環境に応じるために、作用時間の違う薬剤や複数の薬剤を組み合わせて処方します。
睡眠薬を正しく服用して不眠が解消し日常生活に支障がなくなれば、医師と相談の上、薬剤の服用量を減らしたり、服用を止めることも可能です。

本記事では、不眠症の薬物治療において使われる西洋医薬と漢方薬の両方を紹介します。

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不眠症の薬を使わない治療法(非薬物治療)について

不眠症の薬物治療において使われる西洋医薬

現在、不眠症の薬物治療に多く使われる西洋医薬は、大きく分けて「GABA受容体作動薬」「メラトニン受容体作動薬」「オレキシン受容体拮抗薬」の3種類があります。

GABA受容体作動薬

脳の興奮を抑えるGABA(ガンマアミノ酪酸)という神経伝達物質の働きを促すことによって、脳の活動を休ませて眠りへと導きます。
薬の構造から「ベンゾジアゼピン系睡眠薬」と「非ベンゾジアゼピン系睡眠薬」に分けられます。ベンゾジアゼピン系睡眠薬は催眠作用と筋弛緩作用を併せ持っていて、非ベンゾジアゼピン系睡眠薬は催眠作用のみ持っていて、筋弛緩作用がないためふらつき等の副作用がないのがメリットです。

GABA受容体作動薬は、作用時間によって超短時間型、短時間型、中間型、長時間型に分類された複数の薬剤があり、医師は不眠症の症状や患者様の生活環境に応じて薬剤を処方します。

メリットは、効果が強く非常に短期間で効果を実感しやすい、不安症状も改善されるなど。
デメリットは、依存性が出ることや耐性(薬の効きが徐々に悪くなること)が生じることがあるので短期的な使用が推奨されます。

メラトニン受容体作動薬

メラトニンは体内時計を調節して睡眠と覚醒のリズムを整えるホルモン。睡眠ホルモンとも呼ばれます。
メラトニン受容体作動薬(商品名:ロゼレム)は、脳内のメラトニン受容体に作用し、体内時計を睡眠の方向へ調節し睡眠と覚醒のリズムを整えます。

メリットは、自然に睡眠を促す、依存性や耐性がすくない、中途覚醒や熟眠障害にも有効。
デメリットは、即効性がなく効果が実感できるまで2週間ほどかかります。

オレキシン受容体拮抗薬

オレキシンとは、起きている状態を保ち覚醒を維持する脳内の物質(神経ペプチド)。
オレキシン受容体拮抗薬は、オレキシンの起きている状態を保つ働きを弱めることによって眠りを促すタイプの薬剤です。脳の状態を覚醒状態から睡眠状態へ移行することを促します。

メリットは、自然に眠りを促す、即効性も期待できる、GABA受容体作動薬よりも依存性と耐性が少ない。
デメリットは、受容体を阻害することでレム睡眠が増えます。夢を見る時間が長くなったり、悪夢を見ることもあります。頭痛や眠気が残ったりする可能性があります。

不眠症の薬物治療において使われる漢方薬

不眠症の治療において、漢方薬には西洋医薬の睡眠薬のような直接的に睡眠を促す効用はありません。漢方薬の効用で不眠の原因を解消し、眠れるように心身の状態を整えることで、より自然に睡眠を促します。

漢方専門医は、患者様の体質や症状のさまざまな要素から「証」を特定し、特定された「証」に合わせた漢方薬を処方します。
たとえば、イライラからくる不眠には滞った気をめぐらせ、気分を落ち着かせる漢方薬を処方します。不安や気分の落ち込みによる不眠には必要な血(けつ)を補い、気をめぐらせることによって気持ちを落ち着かせる漢方薬を処方します。

漢方薬治療のメリットは眠れるようになるだけでなく、不眠に付随する冷えや疲れ、めまいといった症状を治すこともできます。西洋医薬の睡眠薬と併用することもできます。

「証」を特定する3つ要素 ~「気・血・水」「六病位」「五臓」について~

一般的に慢性不眠症の治療に使用される漢方薬を挙げます。

黄連解毒湯(おうれんげどくとう)
体力中等度以上で体力がある人向き。のぼせ気味で顔色が赤く、イライラして落ち着かないタイプの不眠に処方。体の熱を冷まし興奮を鎮める作用がある。

柴胡加竜骨牡蛎湯(さいこかりゅうこつぼれいとう)
体力中等度以上の人向き。イライラなど精神的ストレスからくる不眠を改善。滞った気をめぐらせ、体にこもった熱を冷ますとともに、気持ちを落ち着かせる効果がある。

加味帰脾湯(かみきひとう)
体力中等度以下の人向き。ストレスによる不安や気分の落ち込みからくる不眠に有効。眠りに導くために必要な血(けつ)を補い、気をめぐらせることによって気持ちを落ち着かせ不眠を改善する。

桂枝加竜骨牡蛎湯 (けいしかりゅうこつぼれいとう)
体力中等度以下で疲れやすく神経過敏な人向き。気、血(けつ)のバランスが整い、不安定な精神を落ち着かせる。神経過敏でイライラする不眠に効果的。