変形性股関節症は、長年の負担や怪我が原因で、股関節の軟骨が変形し擦り減り、股関節の骨が変形する病気です。加齢に伴って発症する可能性が高くなるので、高齢者の約5%にみられ、多くが女性です。

変形性股関節症の治療には、保存的療法と手術療法があります。保存的療法には、股関節の周りの筋肉を鍛えることで股間節の動きを代償させるリハビリ。手術療法後には、低下した筋力の回復、関節可動域の拡大や歩行訓練などのリハビリを行ないます。

保存的療法のリハビリ

通院にて行う保存的療法のリハビリは、外転筋を含む股関節周りの筋力を強化することが目的です。
股関節周りの筋肉を鍛える理由は、筋肉には関節への荷重を軽減する働きがあるため、不安定な股関節の動きを改善する効果や痛みを伴う症状を軽減する効果があるからです。

  • ストレッチ:股関節を中心にストレッチすると、周りの筋肉が緩み、股関節の位置を矯正しやすくなる。
  • 筋力訓練:股関節に負担をかけないように、座位や臥位(寝た状態)で太ももの筋肉や股関節周囲筋の筋力強化を行う。痛みがあるときに無理をして行わないことが大切。
  • 歩行訓練:プールでの歩行訓練は、浮力により股関節への負担が少なくて済むため効果的。体重の減量、増加防止にも効果がある。
  • 日常生活動作訓練:どのような動作で痛みを軽減できるかを工夫しながら訓練する。

保存的療法のリハビリは、どうしても疼痛を誘発してしまう可能性があります。炎症と痛みに十分配慮し、慎重に始めて徐々に強度を高めていくことが重要です。

手術後のリハビリ

城内病院での術後入院期間は約一ヶ月です。医師とリハビリスタッフの指導のもと、きちんとリハビリして退院していただきます。どのようなリハビリを行うか具体的にみていきまよう。

術後リハビリの具体的内容

  1. 循環改善運動:手術直後は痛みがあるため、足を動かすことを体が拒みます。そのため、ふくらはぎなどの筋力維持を目的として、足首を動かす循環改善運動を行います。下肢の血液の環流促進にも役立ち、深部静脈血栓症のリスクも減弱させます。
  2. 関節可動域訓練:脱臼に気を付けて、関節が固まらないように実施します。患者様は脱臼を恐れ、足を動かさない傾向にあります。そのため理学療法士が脱臼を予防し、愛護的に関節を動かしていきます。少しずつ、患者様に足を動かす自信をつけてもらえるように実施します。
  3. 筋力訓練:筋力低下を予防します。また、全身の筋力バランスを維持するために全身調整の運動と筋力増強訓練も行います。筋力訓練は、股および膝関節の屈伸・伸展と股関節外転運動を中心にしたトレーニングから開始し、股関節周囲の筋肉を向上させていきます。
  4. 歩行訓練:歩行訓練は、患者様の荷重状況にあわせて訓練強度を判断します。松葉杖や歩行器などの補助具をベッド~車椅子間の移乗の際に用い、免荷(用具を使って手術部位に、荷重をかけないようにすること)の場合は、片脚での立位・支点移乗動作などを指導します。荷重をかけることが可能になれば、退院にむけての歩行訓練を実施します。
  5. 日常生活訓練:関節に負担のかからない、無理のない生活を心がけます。また、いかに脱臼肢位を日常生活で出さないようにするか(回避方法)が大事です。
    • ベッド上での寝返り:
      外転枕、タオル等を用いて、脱臼姿勢をとらないように防止します。
    • ベッド~車椅子間の移乗:
      非手術側の下肢(健側)を軸足にして行います。回転は、健側回りと術側回りの両方を指導します。
    • 床への座り込み:
      術側を後ろに引き、前傾して手をついた後、健側の膝を床につき、術側下肢を伸展したまま、股関節が内転しないように体を回すよう指導します。

(関連リンク)
変形性股関節症の人工股関節全置換術後のリハビリテーション 70代女性の場合

術後の注意点

深部静脈血栓症は、変形性膝関節症の術後、とくに注意を払うべき合併症です。深部静脈に血液の塊の血栓ができ、血流がせき止められることで様々な症状を引き起こす病気です。予防のためにベッド上でもできるストレッチを行っていただきます。
人工股関節置換術を行った患者様は、移動時やベッド上で体位変換するときには、人工骨頭の脱臼に注意が必要です。

深部静脈血栓症(エコノミークラス症候群)予防のためのストレッチ

退院後の注意点

和式生活が中心の日本ではあらゆる動作において、退院後は脱臼に十分な注意が必要です。しかし、患者様が脱臼を過剰に恐れ、日常生活活動が狭小化する懸念もあります。それを防ぐためにも、どのような動作で脱臼するかを理解することが大切です。

人工股関節置換術の場合、前方切開法に比べ、後方切開法は、股関節後方にある6つの短外旋筋の一部を一旦切離するため、脱臼のリスクが高まります。後方切開法後には、和式トイレや正座などの日常生活動作に制限を要するため、椅子やベッドなどの洋風の生活に変える必要があります。

退院後、自宅で行えるトレーニング

退院後、自宅で行えるトレーニングを紹介します。1日1回行うだけでも効果があります。

股関節屈曲筋

寝たまま足を上げる。片足10回2セット。

股関節屈曲筋のストレッチ写真1 股関節屈曲筋のストレッチ写真2

大腿四頭筋

寝たまま膝の下にタオルなどを置き、下に押し潰す。片足10回2セット。

大腿四頭筋のストレッチ写真1

股関節外転筋

寝たまま両足をゴムでつなぎ、足を広げる。ゆっくりと10回2セット。

股関節外転筋のストレッチ写真1 股関節外転筋のストレッチ写真2 股関節外転筋のストレッチ写真3 股関節外転筋のストレッチ写真4

股関節外転筋

横向きに寝て、足の間に枕を挟み、足を上にあげる。片足10回2セット。

股関節外転筋のストレッチ写真1 股関節外転筋のストレッチ写真2

大腿四頭筋

椅子に座り、膝を伸ばす。片足20回ずつ。

大腿四頭筋のストレッチ写真1 大腿四頭筋のストレッチ写真2

股関節外転筋

立った状態で安定したものにつかまり、足を広げる。片足10回ずつ。

股関節外転筋のストレッチ写真1 股関節外転筋のストレッチ写真2