半月板は膝関節の大腿骨と脛骨の間にある軟骨様の板でクッションの役割をしています。
半月板損傷には、スポーツ中の着地やターンなどで生じる「外傷性」と加齢により傷つきやすくなっている半月板に軽微な外力が加わって損傷する「変性断裂」があります。
本記事は、バスケットボールのゲーム中に半月板損傷した40代女性の中村咲(仮名)さんのケース。
患者様の心身状態や治癒経過に配慮しながら、患者様の希望である早期スポーツ復帰のために行ったリハビリを詳しく紹介します。
(関連リンク)
半月板ってなに? 半月板を損傷する原因は? 損傷すると症状は?
半月板損傷の問診・検査、保存的療法と関節鏡視下手術について
患者様データと半月板切除術に至る経緯
名前・年齢:中村 咲さん(仮名) 40代女性
職業:専業主婦
家族構成:夫と子供1人の3人暮らし
体型:中肉中背で筋肉質
受傷時の状況:社会人バスケットボールのゲーム中に右膝を捻って受傷
中村さんは受傷後すぐに来院。検査により内側半月板損傷と診断され、手術が必要となり「内側半月板切除術」の施行を受けました。
半月板切除術後のリハビリ 目標に合わせたプロトコール
今回、中村さんは社会人バスケットボールの大会前ということで、なるべく早い退院を希望されました。
そのため私たちリハビリスタッフは最短での退院を目標に、城内病院の半月板切除術後のプロトコール(治療計画・手順)に沿ってリハビリ介入させていただきました。
- 手術翌日から痛みのない範囲で体重をかけてのリハビリは可能。
- 膝を曲げる角度には制限はなく、痛みをみながら徐々に曲げていく。
手術後翌日からのリハビリ
術創部があまり安定した状態でなく、腫脹(はれ)や熱感がある状態の手術翌日に、リハビリはスタートします。
そのために、まずはベッドサイドにて患部のリラクゼーション、膝の曲げ伸ばし運動などの比較的に負荷が軽い運動から始めます。
最初は患者様自身で痛みの様子をみながら膝の曲げ伸ばし運動を行って頂き、慣れてきてからリハビリスタッフが曲げ伸ばし運動を行うようになります。
つぎに城内病院の半月板切除術のリハビリプロトコールでは、術後早期から足に体重をかけるリハビリを始めます。リハビリ開始当初、中村さんの表情は不安で一杯でした。
リハビリスタッフは中村さんの不安な気持ちに配慮して、膝の痛み具合をみながら歩行訓練を行います。
最初は平行棒の中、次にリハビリ室内での歩行訓練、病棟内の廊下・・・と少しずつ歩行距離を伸ばしていくことで、中村さんの不安を解消し自信をつけていただきました。
スポーツ復帰に向けての筋力・持久力強化訓練
中村さんが希望される退院後すぐのバスケットボール大会出場には、日常生活で使う筋力以上のスポーツに耐えうる筋力と体力が必要となります。
そのため、リハビリスタッフは下肢の筋力訓練だけでなく「上肢の筋力訓練」も同時に実施。
最初は自重での上肢の筋力訓練を行い、つぎに重錘(おもり)・ダンベルなどを使用して徐々に負荷を上げていきました。
スポーツに耐えうる「筋持久力」も必要です。膝が十分に曲がるようになってから、自転車エルゴメーター(エアロバイク)を使った訓練で持久力を強化。
最初のうちは低負荷で実施、膝の痛みをみながら徐々に負荷を上げていきました。
中村さんは「大会に出ないといけないから」と毎回一生懸命にリハビリに励まれました。
退院を控えてのスポーツに必要なバランス能力強化訓練
退院が近づくころには膝の痛みもほとんどない状態だったため、バスケットボールに必要な「バランス能力の強化」を図りました。
「バスケットボールでは片足での着地やパスをすることが多い」と中村さんに伺いました。そのため、中村さんに積極的に行っていただいた訓練は、バランスディスクを用いて片足で行う足部のバランス訓練・筋力訓練です。再受傷防止も兼ねています。
半月板損傷のリハビリ ~退院の日を迎えて~
退院の日、中村さんは「手術直後はすごく不安だったけど、スタッフの方がいつも笑顔で接してくれたおかげで不安が和らぎました。」と仰って下さいました。
手術直後の急性期では患者様も初めてのことが多く、不安な気持ちでいっぱいだったと思います。
中村さんのリハビリを終えて、患者様の身体面のサポート以外にもメンタル面でのサポートも重要だと改めて感じました。今後も笑顔を意識して少しでも患者様の不安を取り除きたいと思います。
中村さんは退院後も定期的に城内病院の系列である保利クリニックに通院して、リハビリを継続されています。
半月板損傷のリハビリを終えて ~リハビリスタッフの所感~
今回、中村さんのリハビリを担当して感じたことは、「同じ半月板の損傷でも、患者様の年齢や手術方法によってリハビリの内容や進行スピードが変わるんだな」ということです。
年齢が40代の中村さんのケースでは、希望通りにスポーツ復帰というリハビリのゴールにたどり着けました。
しかし、高齢になればなるほど、リハビリのゴールに到達することが困難になります。高齢の患者様のケースでは、理想のゴールよりも到達可能な小さなゴールを設定し、目の前の日常生活に着目してリハビリを実施することが重要です。
今後、私たちリハビリスタッフの課題は、同じプロトコールでも患者様の日々の心身状態に心配りして、患者様それぞれに合わせたゴール設定や治療プログラムを提供していくことだと強く感じました。