腰部脊柱管狭窄症は腰椎椎間板ヘルニアと同じように、坐骨神経痛を呈する病気。
脊柱管の中に存在する硬膜が圧迫されることで硬膜内の神経の血流が低下して、下肢に痛みやしびれが出る坐骨神経痛をおこします。

今回は、70代男性のケースで腰部脊柱管狭窄症の開窓術後のリハビリテーションを紹介します。

(関連リンク)
腰部脊柱管狭窄症
腰部脊柱管狭窄症のリハビリテーションにおける運動療法

70代男性 佐藤孝夫(仮名)さんのデータ

名前・年齢・性別
佐藤孝夫(仮名)さん 70代 男性
職業
畜産農業
家族構成
本人・妻・長男夫婦
余暇活動
カメラ
退院後の希望
復職したい

腰部脊柱管狭窄症の開窓術に至る経緯

診断名
腰部脊柱管狭窄症(LSCS:lumbar spinal canal stenosis)
手術法
開窓術=顕微鏡視下椎弓切除術(micro laminectomy)
現病歴
以前より腰痛の訴えがあり、間欠性跛行の症状もある。
4~5年前より両下肢脱力感があり、半年前から左足の動きが悪くなってきた。
腰部脊柱菅狭窄症の特徴的な症状のイラスト
出典:日本整形外科学会HP 「整形外科シリーズ8 腰部脊柱管狭窄症 」

手術までの経過

入院前、整形クリニックでの骨盤牽引・温熱療法では改善が認められず、神経ブロック注射も効果がみられなかったために入院して治療することに。

入院後1週間は、服薬の血行促進効果により軽度改善はみられたものの、症状が完全には改善しなかったため入院後2週間目に手術が行われました。

腰部脊柱管狭窄症の開窓術について

城内病院での腰部脊柱管狭窄症の手術法は、おもに手術用顕微鏡下による開窓術(部分椎弓切除術)です。
開窓術とは背中の必要部分を切開して、脊柱管が圧迫されている部分の後方にある椎弓(椎体の両側から後方に出ている橋状の部分)の一部を切除します。
同時に、肥厚した黄色靭帯も切除することで神経への圧迫を取り除きます。

腰部脊柱管狭窄症の開窓術が必要なケース

  • 保存的療法を行っても症状が改善しない。
  • 排尿障害(尿閉、尿漏れ等)や排便障害(肛門周囲のほてり等)がある。
  • 神経麻痺が急激に進行して、下肢の筋力低下・知覚低下がある。

医師・看護部からリハビリスタッフへの指導及びアドバイス

医師

腰部脊柱管狭窄症と軽度の椎間板ヘルニアが混合した型です。
リハビリとしては、術直後の安静と痛みの有無に気をつけながら、長期入院による活動性の低下やそれに伴う体力・筋力低下が考えられるため、筋力強化を中心にすすめてください。

看護部

患者様はリハビリに対して意欲的で活動的です。しかし、術後とのことで無理しないかが心配です。

腰部脊柱管狭窄症の開窓術後のリハビリ目標と治療計画

リハビリテーション部は、リハビリ開始前に目標(ゴール)を設定しました。

短期目標:病棟内生活の自立。
長期目標:日常生活動作の獲得。
最終目標:復職。

城内病院リハビリテーション部は、以下の治療計画に沿って佐藤さんのリハビリを実施しました。

術後1日目:ギャッチアップ30°
術後2日目:ギャッチアップ60°
術後3日目:ギャッチアップ90° トイレまでの歩行器歩行開始。
術後5日目:リハビリテーション室内での歩行訓練開始。(術後2週までは歩行器使用)
術後6週迄:ストレッチ・下肢筋力訓練・Core-ex(体幹筋力訓練)。術創部に負担のかからない程度の負荷量で。
術後6週~:腹筋・背筋などの体幹筋力訓練。

ギャッチアップのイラスト
ギャッチアップとは、リクライニング式ベッドの上体を起こすこと。

腰部脊柱管狭窄症の開窓術後に実際に行ったリハビリテーション

術後6週までのリラクゼーション・ストレッチ・下肢の筋力訓練、術後6週からの積極的なCore-ex(腹筋・背筋など体幹筋、足腰の筋力訓練)については、“腰部脊柱管狭窄症のリハビリテーションにおける運動療法”で詳しく紹介しています。
佐藤さんのケースでも同様のリハビリテーションが行われました。ご参照ください。

手術後1週目のリハビリテーション

術後は術創部への負荷がかからないよう安静が重要です。
手術後1週目は、プロトコールに従ってベッド上のリハビリテーションを中心に行いました。

  • 深部静脈血栓症予防:間欠的空気圧迫装置(メドマー)および足首・足指の上下運動(底背屈運動)を指導し、血流の循環を促進させる。
  • 下肢のストレッチ、トレーニング。
  • 歩行器使用下での歩行訓練。

退院前後のリハビリテーション

退院前のリハビリでは過度な制限などなく、積極的な体幹トレーニングを行いました。また、入院前と同じような屋内生活動作を獲得するためのリハビリテーションを実施しました。

退院後は外来リハビリテーションや自宅での自主訓練を行っていただきました。
自主訓練は、日常生活で負担がかかる動作や仕事での動作を考慮した自主訓練プログラムの作成が重要です。
自主訓練プログラムの作成のために、退院前にリハビリテーションスタッフへの情報提供などをお願いしました。

腰部脊柱管狭窄症の開窓術後のリハビリテーションを終えて

佐藤さんは、「足指のしびれは残存したが、歩行が延びても大丈夫になり満足している。」「復職にむけて自宅での自主訓練と通院リハビリテーションで頑張っていきます。」と仰って退院されました。

リハビリテーション部としては、疼痛コントロールや体幹筋力の強化を中心に実施し、日常生活動作の獲得という長期目標は達成できました。
しかし、足指のしびれは残存しており、退院後には通院でのリハビリテーションが必要であると考えました。