名前:
古賀恵子さん(仮名) 80代女性
職業:
主婦
家族構成:
夫と2人暮らし
受傷前の生活:
炊事・洗濯・掃除など家事全般をされていました。
体型:
やや肥満傾向
受傷時の状況:
右膝に痛みがあり、数年間クリニックにて関節注射などの治療を受けていたが、痛みが増強し歩行困難となった。
古賀さんのご希望:
また歩けるようになって、以前のように家事がしたい。

ポイントを示すリハビリスタッフのイラスト 古賀恵子さん(仮名)は、すでにクリニックで右膝の治療を受けていました。しかし、痛みが強くなり歩けなくなったため、城内病院にて人工膝関節置換術(TKA法)を受けました。

(関連リンク)

変形性膝関節症 人工膝関節置換術後のリハビリテーション

古賀さんは「また歩けるようになって、以前のように家事がしたい。」と希望されました。
古賀さんの希望をかなえるために、私たちリハビリスタッフは早期の疼痛緩和を図り、リハビリ最終目標を日常生活に必要な筋力と膝の関節可動域の獲得としました。

人工膝関節置換術直後のリハビリテーション

人工膝関節置換術直後のリスクには深部静脈血栓症があります。血流不全により深部静脈で血栓が発生する病気です。
発生した血栓が、血流に乗り脳・肺・心臓などに移動し損傷を与える場合があります。

術後の痛みにより自分から足を動かそうとしない古賀さんにも、同じ姿勢を長時間とることが原因の深部静脈血栓症になる恐れがありました。
リハビリスタッフは、深部静脈血栓症を防ぐために、間欠的空気圧迫装置(メドマー)を用いて血流の循環を促進しました。

またベッド上でもできる運動として、足首の上下運動を指導しました。古賀さんも「これなら私にもできます」とおっしゃりました。

手術から3日後、古賀さんは「だいぶ痛みが取れてきたし、足を少し動かせるようになりました」とおっしゃいます。
そこで、古賀さんに痛みの程度を確認しながら、少しずつ膝関節の曲げ伸ばし運動(関節可動域訓練)をしていただきました。
初めはなかなか曲がらなかった膝も、徐々に動かしていくことで、椅子に腰掛けることが可能になりました。

(関連リンク)
深部静脈血栓症(エコノミークラス症候群)予防のためのストレッチ

人工膝関節置換術後 太ももの筋力低下に対する筋力訓練

人工膝関節置換術後は、痛みにより思うように足が動かせないことで筋力低下が生じます。
古賀さんの場合は、「また家事が出来るようになりたい」という希望があるため、まずは歩行能力の獲得のための筋力訓練を始めました。

痛みが続いている時期にはベッド上でもできる筋力訓練から開始します。
術後1~2週間後には、痛みの程度に応じて、徐々に負荷を増やし筋力増強を図っていきます。

人工膝関節置換術後では多くの場合、太ももの筋力が低下します。とくに大腿四頭筋は、座った姿勢からの立ち上がり時や歩行時に膝を伸ばす役割がある必要不可欠な筋肉です。

古賀さんがある程度歩行可能になった時点で、椅子に座り足首に重りをつけた状態での膝の曲げ伸ばし運動やハーフスクワットなどで、大腿四頭筋を鍛えるためのリハビリを実施しました。
古賀さんは、「少しきついけど、自分のためなので頑張ります」と言いながら筋力訓練を頑張って下さいました。

人工膝関節置換術後の足にかかる荷重量コントロール

ポイントを示すリハビリスタッフのイラスト人工膝関節置換術後は、医師の指示により足にかかる荷重量(体重量)が制限されることがあります。
古賀さんの場合は、術後翌日より制限なく全体重量の荷重許可が出ました。しかし荷重による痛みが出現したため、痛みに応じて荷重量をコントロールしました。

まずは、リハビリ室の平行棒内で腕の力を利用しながら少しずつ荷重量を増やし、歩行距離を延ばしました。
そののち荷重時の痛みが緩和した時点で、松葉杖歩行から杖歩行へと移動手段をレベルアップしました。

変形性膝関節症 退院後の生活に備えるリハビリテーション

古賀さんの平屋の自宅玄関には、20cm✕2段の上がり框がありました。そのため、リハビリスタッフは、杖歩行が安定した時点で階段昇降訓練の必要があると判断しました。

階段昇降は膝に対する負担が大きいため、健側(左足)から昇り患側(右足)から降りる動作指導を行いました。
最初は「覚えられるか不安です」と言っていた古賀さんでしたが、繰り返し訓練することで階段昇降動作を身に付けることができました。

また、家事では配膳や洗濯物干しなどの両手がふさがる動作が求められることが多いため、バランス訓練も行いました。
以上の訓練を実施したことで、古賀さんは杖歩行が安定し、約10m程度であれば杖なしでも歩けるようになりました。

そこで退院準備として試験外泊を提案させて頂きました。試験外泊後、古賀さんは「家の段差も昇れたし、料理もできました」と、自宅での生活に自信を持たれたようです。
最後に、退院後に自宅でもできる自主訓練メニューの提案と自宅での動作指導を行いました。

古賀さんが退院されて ~リハビリスッタフの所感~

古賀さんの希望もあり、現在は外来にてリハビリを継続されています。退院前に提案した自主訓練メニューと合わせて継続して頂くことで、日常生活を安全におくって頂きたいと思っています。

古賀さんのケースでは、リハビリスタッフは「できることとできないこと」を明確に伝えることを徹底しました。
それによって、「前までできなかったのに、できるようになりました。」とリハビリテーションの効果を実感しやすくなり、古賀さんの意欲を引き出すことに成功しました。

患者様とリハビリスタッフが二人三脚で行うリハビリテーションは、患者様の意欲を引き出すことがリハビリテーションの効果に大きく関与していると改めて感じました。

退院後に自宅でできる自主訓練を紹介します

タオルギャザー:前方もしくは側方からタオルを引く訓練
タオルの上に水の入ったペットボトルなど重りを置き、負荷をかける。
回数:1セット10回、1日3セットを目標に。
効果:立ち上がった際や片足で立った際のバランス能力向上。
(関連リンク)
変形性膝関節症 急性期のリハビリについて

仰向けで寝た状態で両膝を立てお尻上げ:股関節周囲の筋力訓練
回数:1セット10~15回、1日3セットを目標に。
効果:臀部(お尻)の筋力向上。痛い足に負荷がかかった時に、体幹や骨盤が逃げないようにするため。
注意点:呼吸を止めないように。お腹周りに力を入れすぎずに自然に行いましょう。
(関連リンク)
変形性膝関節症 亜急性期のリハビリについて

ハーフスクワット
回数:1セット10~15回、1日3セットを目標に。
効果:股・膝関節周囲(大腿四頭筋、殿筋群)の筋力の強化、体幹(背筋、腹筋など)の筋力強化、腰痛予防のための腹圧の向上。
注意点:背中を丸めない、猫背にならないように。反り腰は腰痛の原因。まっすぐな姿勢を意識して!
膝はつま先より前に出さないように。前に出てしまうと腰痛の原因になる!
膝とつま先の方向は同じ方向に。内側や外側に倒れてしまうと、膝の疼痛の原因になる。
(関連リンク)
変形性膝関節症 慢性期のリハビリについて