手の指の爪、足の指の爪、どちらの爪も動作時や接触時などに外部環境の影響を受けやすい部位です。たとえば、手の爪ならば水仕事で流水に、対象物を力強く握った時など。足の爪ならば靴の中での圧迫、歩行時の衝撃など。

そのため、爪の周囲にできた小さな傷により腫れや痛みが生じると、症状の程度以上に痛く感じたり気になってイライラするのではないでしょうか。
「爪のささくれを剝がしたら膿んで痛い」「深爪しすぎて歩くたびに足の指が痛い」と訴えて来院される患者様は多くいらっしゃいます。
「爪のささくれを剝がしたら膿んで痛い」のように、爪の周囲の皮膚の傷から化膿をおこす菌が入り、爪の周囲が赤く腫れるなどの炎症・化膿が生じた状態を爪周囲炎または爪囲炎(そういえん)と呼びます。

爪の周囲が赤く腫れるなどの炎症・化膿が生じた状態のイラスト

爪周囲炎の原因となりやすい方

爪周囲炎の原因は、爪周囲にできる傷とその傷から侵入して化膿をおこす菌です。
傷がなければ爪の周囲の皮膚が細菌などの侵入をブロックするため、炎症や化膿が生じることはありません。
しかし、以下に挙げた爪周囲に傷ができる要因で皮膚のブロックが無効になれば、化膿をおこす菌の侵入を許してしまいます。

爪周囲に傷ができる要因の例

  • 爪周囲のささくれ(さかむけ)を剝がしてできた傷
  • ふかづめ、陥入爪、マニキュアの使用
  • 爪を噛む癖
  • 乳幼児の指しゃぶり
  • 子供の土いじりや砂遊びなどでのケガ
  • 水や土に触れる機会が多い

化膿をおこす細菌や真菌、ウイルス

  • 細菌:黄色ブドウ球菌、化膿性連鎖球菌、大腸菌、緑膿菌など
  • 真菌:おもにカンジダ
  • ウイルス:単純ヘルペスウイルス

爪周囲炎になりやすい方は、土や水を扱うことの多い仕事や趣味をお持ちの方、たとえば、美容師、漁師、農家、建築関係、料理人など。
ほかには、指しゃぶりをする乳幼児、糖尿病患者、動脈硬化による血行障害をお持ちの方、ステロイドや免疫抑制剤を使用している方など。

爪周囲炎の症状とは?

急性炎症では、原因となる病原菌の侵入から数時間後には爪周囲の皮膚が赤く腫れて痛くなり、症状は数日間続きます。眠れないほどのずきずきした痛みになることも。
膿は爪の縁に溜まることが多いですが、爪の下に溜まることもあります。

爪周囲炎で化膿が拡がる状態のイラスト

炎症が指の腹側まで波及して化膿するひょう疽(瘭疽)と呼ばれる蜂窩織炎(ほうかしきえん)を発症することもあります。蜂窩織炎とは、皮膚の傷などから細菌が侵入し、皮膚とその下にある脂肪組織などに炎症を引き起こす病気のことです。
ひょう疽は、より痛みや腫れが強くなる傾向があります。

爪周囲炎の症状

  • 爪周囲の皮膚に痛み、発赤、腫れ、熱感
  • 爪の縁や下に膿が溜まる
  • ひょう疽: 炎症が指の腹側まで波及して化膿する

爪周囲炎の診断と検査

問診にて患者様に患部の爪を見せて頂き、症状をお聞きします。
「爪の周囲に痛み、発赤、腫れがないか」、「爪の縁、爪の根元、指の腹側に膿が溜まっていないか」を確認します。

爪周囲炎には、症状の似た皮膚疾患がいくつかあります。診断を確定するために患部の皮膚や膿を採取して、細菌の培養検査を行うこともあります。

爪周囲炎の治療について

症状が初期のケースでは、抗菌薬の内服(抗生物質、抗真菌薬、抗ウイルス薬)と冷湿布で治療します。抗菌作用のある塗り薬の併用も有用です。
膿が溜まっているケースでは、切開や針を刺すなどして膿を出します。爪の下に膿が溜まっていれば爪を切除して膿を出すこともあります。
陥入爪などで爪が食い込んでいることが原因のケースでは、食い込んでいる爪の一部を切除します。

爪周囲炎は爪周囲にできた傷から菌が侵入して炎症や化膿をおこす感染症です。予防法として、手洗い時や入浴時に手足の指の先まで丁寧に洗いましょう。菌を洗い流して清潔を保つことが大切です。

爪周囲炎の治療についてのイラスト

イラスト出典:一般社団法人 日本手外科学会 手外科シリーズ11. 爪周囲炎