舟状骨は、手首(手関節)の8つの手根骨の1つで親指側にあります。船底の様に湾曲した形をしているので、舟状骨と名付けられています。

舟状骨は最も損傷を受けやすい手根骨です。
骨折は、サッカーなどのスポーツで後ろ向きに転倒して、背屈(手のひらを地面につけた状態)で手をついた時におこります。そのため10〜20代のスポーツ競技者によくみられる骨折です。

舟状骨を骨折すれば痛みは生じますが、骨のずれがそれほど大きくないため、強い痛みが生じないケースがあります。
また、母指列にある舟状骨は他の指の列に対し45度傾いているため、レントゲン写真では骨折部が見えにくく、見逃されてしまうこともあります。

このような理由で骨折に気づかずに治療を受けず放置していると、骨折した骨がつかず、骨の変形が進行して関節のように動く偽関節になります。
舟状骨骨折は偽関節になりやすいのが特徴で、慢性的な痛みや手の機能障害の原因となります。

サッカーで手をついて怪我をするイラスト

舟状骨骨折の原因と病態

舟状骨骨折は、サッカーなどの運動時に後ろ向きに転倒して、背屈(手のひらを地面につけた状態)で手をついた時に受傷することが多く、10〜20代のスポーツ競技者によくみられる骨折です。
交通事故での転倒時などに手をついて生じるケースもあります。

舟状骨骨折は多くの場合に、舟状骨の腰部と呼ばれるくびれた部分がひび割れて骨折します。
舟状骨には、指先の側から手首に向かって血行(血液供給)があるため、舟状骨の腰部に骨折が生じると手首側の血行不全が生じやすくなります。
血行不全により骨折した骨がつかず骨の変形が進行すると、骨折部が関節のように動く偽関節になる可能性が高くなります。

舟状骨骨折の症状とは?

受傷直後には、手首の親指の付け根に痛みと腫れが生じます。骨折部分のずれが少ない場合には強い痛みがないため、捻挫と判断して骨折を見逃すこともあります。

時間が経過すれば痛みや腫れが治まりますが、治療せず放置して骨折部がつかずに偽関節になることがあります。
偽関節になると手首の関節の変形が進行し、手をついたり重いものを持つと手首が痛み、力が入らなくなります。また手首の動きも悪くなります。

舟状骨骨折の検査と診断

受傷直後に手首の親指側に痛みや腫れ、とくに解剖学的嗅ぎタバコ入れ(母指を外転させたときに手背の橈側にできる三角形のくぼみ)に圧痛があれば、舟状骨骨折や舟状骨偽関節を疑い、X線(レントゲン)検査を行います。

受傷早期のX線(レントゲン)検査では、骨折線をはっきりと確認できないことがあります。
このような受傷早期に確定診断がつかない場合でも、舟状骨骨折を疑い2〜3週間後に再度X線検査を行えば、骨折線がはっきりと写ることがあります。

精度の高いMRIやCT検査は、受傷早期でも骨折線をはっきりと確認できるため舟状骨骨折の診断に用いられることが増えてきています。

正常な骨、骨折した骨、偽関節のイラスト

舟状骨骨折の治療とは?

舟状骨骨折は、舟状骨の血行が悪いため骨がつきにくい骨折です。
治療法には保存的療法と手術療法があります。

保存的療法は骨折部を安定させるためのギプス固定です。
受傷直後に確定診断がつくケース、腫れや痛みが軽くレントゲン検査でも骨折と確定できなくても手首の親指側の痛みや解剖学的嗅ぎタバコ入れに圧痛があるため骨折が想定されるケースです。

しかし血行が悪いため骨が付きにくい舟状骨骨折は、ギプス固定しても治癒までに3ヶ月近くを要することもありますし、骨癒合が得られない場合も少なからず見られます。

上記のような理由から、最近では治癒期間の短縮を目的に、特殊なネジで患部を固定する手術法を選択することが多くなりました。
手術法が推奨されるもう一つの理由に、手術をすればギプス固定が不要になることがあります。激しいスポーツや労働はできませんが、食事や車の運転などの日常生活動作はそれほど制限されません。

適切な治療を受けずに骨折部が偽関節になり骨の細胞が壊死してしまうと、骨を削り移植する手術が必要になることもあります。

ギプス固定とねじ固定のイラスト

イラスト出典:一般社団法人 日本手外科学会 手外科シリーズ9. 舟状骨骨折