ラテン語で「脱出」を意味するヘルニアとは、体内のある臓器が本来あるべき位置から脱出してしまった状態のことです。
ほとんどの場合、腰椎椎間板ヘルニアは、椎間板内の髄核が後方に突出あるいは脱出して、後方にある神経根を圧迫することで、腰や臀部が痛む、下肢にしびれや痛みがでる坐骨神経痛を呈する病気です。
腰椎椎間板とは
背骨(脊椎)は、椎骨とその間でクッションの役割をする椎間板が交互に重なっています。 椎間板は、内側にある柔らかい髄核とその外側を囲む硬い線維輪で構成されています。椎間板の前方の線維輪が厚いのに対して、後方(背中側)の線維輪は薄く断裂しやすい構造です。
腰椎椎間板は、5つの腰椎と1つの仙骨の間でクッションの役割をしています。
椎間板の後方には、脊柱管が存在し、その中に神経の束が通る硬膜と硬膜から出て下肢の運動と感覚を司る神経根があります。
原因となりやすい方
原因や発症の契機がすべて解明されているわけではありません。発症部位の多くは、可動域が大きい第4腰椎・第5腰椎の間と第5腰椎・第1仙椎の間の椎間板です。
多くの場合、腰に負担がかかる作業、外傷、習慣的喫煙や加齢により、椎間板が変性し線維輪が断裂すると、柔らかい髄核が出てきます。
後方の線維輪は薄く断裂しやすいため、髄核の後方への突出・脱出、すなわち椎間板ヘルニアを引き起こす要因となります。
この突出・脱出したものをヘルニアと呼びます。
飛び出したヘルニアにより、椎間板の後ろにある神経根が圧迫され炎症をおこすことで、腰や臀部が痛む、下肢にしびれや痛みがでる坐骨神経痛が生じると推察されています。
患者様は、重労働者、職業ドライバー、習慣的喫煙者の多い20~60代の男性に多くみられます。
若い方に患者様が多いのが特徴ですが、加齢による椎間板の変性が原因の高齢者にもよく見られます。
最近の研究では、遺伝的背景も椎間板ヘルニア発症の要因ではないかと考えられています。
腰椎椎間板ヘルニアの症状
腰椎椎間板ヘルニアの特徴的な症状は、坐骨神経痛による下肢の強い痛みとしびれです。
- 腰や臀部が痛む。
- 下肢放散痛:下肢に痛みやしびれが出る。
- 足に力が入りにくくなる
- 疼痛性側弯:背骨が横に弯曲して動きにくくなり、重いものを持つと痛みを覚える。
ヘルニアは、重いものを持った時などに1回の外傷で出ることもあれば、普段の作業によって徐々に出てくることもあります。後者の場合は、神経が慣れて痛みに気づかないこともあります。
発症してしばらくするとヘルニアが消えることもあります。
飛び出た(脱出した)ヘルニアが脊柱管の中に入ると異物と捉えられ、マクロファージ(大食細胞:白血球の1種)が飛び出たヘルニアを貪食するため、ヘルニアのサイズが減少・退縮することがあるからです。
腰椎椎間板ヘルニア 城内病院の検査と診断
まず、問診において患者様に、どこが痛むか、どのような症状があるか、いつ痛むかなどをお尋ねします。
坐骨神経痛がみられ腰椎椎間板ヘルニアが疑われる場合は、下肢伸展挙上試験(ラセーグテスト・SLRテスト)を行います。下肢伸展挙上試験とは、仰向けで膝を伸ばしたまま下肢を挙上し、坐骨神経痛の出現をみる検査です。
さらに、レントゲン(X線)では腰椎間の狭小化を確認します。椎間板が変性して硬くなり弾力性を失うと、腰椎間の狭小化がおこります。
MRI検査は、ヘルニアが出ているのがはっきりと確認できるために、診断を確定させるのに有用です。
腰椎椎間板ヘルニア 城内病院の治療
腰椎椎間板ヘルニアの治療法の基本は保存的療法です。
しかし、排尿障害(尿閉)がある場合や神経の麻痺が急激に進行して下肢の筋力低下・知覚低下がおこる場合には、早急に手術を行います。
腰椎椎間板ヘルニアの保存的療法
基本的に痛みが強いときはコルセットなどの装具を使い、安静を保つことが大切です。
城内病院では、腰椎椎間板ヘルニアの保存的療法を2段階に分けて行います。
第1段階の保存的療法を行っても、痛みが取れないなど症状が改善しない場合は、第2段階の保存的療法を追加します。
第1段階
1ヶ月ほどで症状の改善が見られることが多い。
- 消炎鎮痛薬の服用:痛みを止め、神経の炎症を抑えるため。
- ビタミンBの静脈注射:神経賦活剤。神経を活発にして足のしびれを元に戻す。
- リハビリテーション:週2~3回、通院で行う。物理療法は温熱療法と腰椎牽引(仰向けの状態で腰部を引っぱる)。運動療法は筋力訓練や体操を行います。
第2段階
第1段階で症状の改善が見られない場合に追加。入院後1ヶ月ほどで症状の改善が見られることが多い。
- 第1段階の治療を継続する。
- ブロック注射:硬膜外もしくは神経根に注射する。血管拡張作用により神経の循環障害を改善。速やかに神経の炎症を軽減し、除痛が期待できる。
入院していただき1ヶ月に4~5回注射。 - リハビリテーション:入院中に物理療法と運動療法を行う。
腰椎椎間板ヘルニアの手術療法
手術を行う必要があるのは以下のケースです。手術後およそ2~4週間の入院とリハビリが必要です。
- 保存的療法を行っても症状が改善しない。
- 排尿障害(尿閉、尿もれなど)がある。
- 神経の麻痺が急激に進行して、下肢の筋力低下・知覚低下が起こる。
城内病院での腰椎椎間板ヘルニアの手術法は、基本的に内視鏡下椎間板摘出術です。背中側を2cm切開して内視鏡を挿入し、飛び出たヘルニアを切除・摘出します。
切開が最小限で済む内視鏡を使うことで、患者様のダメージをより小さくできることがメリットです。
飛び出たヘルニアが大きい場合は、顕微鏡下椎間板摘出術を行うこともあります。大きなヘルニアをより正確に切除・摘出できることがメリットです。
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