手根管症候群とは、手のひらの付け根部分にある手根管というトンネルの中にある正中神経が圧迫されて、指にしびれが起こる病気です。

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城内病院整形外科の手外科について

手根管と正中神経

手根管とは、手首の骨と横手根靭帯に囲まれたトンネルのような空間で、指を曲げるための9本の腱(滑膜性の腱鞘に覆われている)と1本の正中神経が通っています。

手根管と正中神経のイラスト

正中神経は、手のひら側の親指・人差し指・中指・薬指(親指側半分)までの3本半の感覚と親指の動きなどを司っています。小指は正中神経の支配領域に含まれないため、手根管症候群のしびれの症状は小指には現れません。

手根管症候群のしびれの症状のイラスト

手根管症候群になりやすい方と症状

妊娠期・出産期や更年期の女性に多く見られます。原因ははっきりとはわかりませんが、女性ホルモンのバランスの異常と推察されます。
仕事やスポーツで手首を酷使する方、手首の骨折経験者、透析をしている方にも見られます。

初期には、しびれや痛みが人差し指と中指を中心に出ます。進行すると親指と薬指(親指側半分)を含む3本半にしびれが広がります。

さらに進行すると、筋肉に達する神経までが障害され、親指の付け根(母指球)の筋肉が萎縮して痩せるために、親指と人差し指でOKサインができなくなります。
縫い物や小銭を掴む時に要する「つまむ」動作に支障が出ます。

OKサインができないイラスト

手根管症候群の特徴的な症状は以下の3つです。

  • 小指以外がしびれ、痛む。
  • 夜間や早朝にしびれや痛みが出る。
  • 手を振るとしびれや痛みが緩和する。

手根管症候群 原因と病態

手根管症候群のはっきりとした原因は不明とされています。
現在わかっていることは、なんらかの要因で手根管内にある正中神経が圧迫され、一時的に血流が途絶え扁平になり、しびれや痛みが生じるということです。
たとえば、仕事やスポーツで手首を使い過ぎて、腱を覆う膜(腱鞘)や腱をつなぐ滑膜性腱鞘が炎症を起こし腫れて厚くなり、正中神経を圧迫する場合が挙げられます。

また、妊娠期・出産期や更年期の女性に多い特発性(はっきりとした原因がわからないこと)手根管症候群の場合は、女性のホルモンバランスの異常により滑膜性腱鞘がむくんで、正中神経を圧迫するためと考えられています。

手根管症候群の診断と検査

まず、問診において患者様の症状を伺います。とくに、指がしびれると訴えられる患者様が、小指と薬指の小指側にしびれや痛みがない場合は手根管症候群を疑います。

手根管症候群を疑われる患者様には、以下の3つの検査を必要に応じて行います。

  • ティネル様徴候:手首(手関節)を打鍵器で叩くとビリビリとしびれ、痛みが指先に響く(放散痛)。
  • 筋電図検査:微弱な電流で正中神経を刺激して、神経が信号を伝える速度を測る。神経が 障害を受けていたら伝導速度が遅くなる。
  • レントゲン(X線)検査:骨に障害がないかどうかを確認する。
ティネル様徴候イラスト
ティネル様徴候

城内病院手外科 手根管症候群の治療法

手根管症候群の治療の基本はなるべく手を使いすぎない、つまり安静にすることです。
保存的療法で治らない、何度も再発する、または、診断の時点で母指球が痩せている方やしびれがひどい方には手術療法を選択します。

手根管症候群の保存的療法

初期手根管症候群の治療は保存的療法を選択します。安静のための固定療法、鎮痛・消炎のための薬物療法や注射療法などを行います。

固定療法
安静のために装具で手首を固定する。取り外しのできるもので、夜寝ている間に装着するだけでも効果がある。
薬物療法
痛み止めの飲み薬、貼薬や塗薬。末梢神経を再生・保護するためのビタミンB12内服薬。
注射療法
手根管の中に直接、ステロイド薬を注射して痛みや炎症を抑える。有効な治療法とされていて数ヶ月は症状が消えるが、再発することもある。

城内病院の手根管症候群の手術療法

保存的療法で治らなかった方、診断の時点で母指球が痩せている方やしびれがひどい方には手術療法を選択します。術後の経過を考慮すると、母指球の筋肉が萎縮する前に手術したほうが良いと言えます。

一般的な手術療法としては、鏡視下手根管開放術や小皮切(皮膚をなるべく小さく切開する)による直視下手根管開放術があります。

どちらも、患者様の侵襲(体へのダメージ)を少なくするために手首を小さく切開して、横手根靭帯を開放することで、正中神経の圧迫を取り除く手術です。術後の痛みが少なく早期に職場や社会に復帰することが可能です。

城内病院手外科では、小皮切による直視下手根管開放術で手術を行います。その理由は、小皮切による直視下手根管開放術の方がより良い術後の経過が望めるからです。
30分程の局所麻酔の手術なので日帰りも可能です。術後の状態を万全にケアするために短期入院もできます。

直視下手根管開放術のイラスト
直視下手根管開放術

重度の症状で、母指球の筋肉が萎縮してものがつかみにくい場合は、母指対立機能(親指が他の指と向かい合う動き)を改善するために母指対立再建術を選択します。

母指対立再建術とは、長掌筋(手首を屈曲する腱)や環指浅指屈筋(前腕にある薬指を曲げる筋肉)を採取し、萎縮した母指球の筋肉に移行して親指の動きを改善する手術です。
手術後に1~2週間程の入院が必要です。1週間は手首を完全に固定して安静にしていただきます。



イラスト出典:一般社団法人 日本手外科学会 手外科シリーズ 1.手根管症候群