「風邪をひきやすい」「疲れがなかなか取れない」「アレルギー症状を繰り返す」などの悩みから、「免疫力を高めたい」と考える方は少なくありません。
私たちが普段使っている「免疫」という言葉は、現代医学では、細菌やウイルスなどの病原体から体を守る生体防御の仕組みを指します。
一方、漢方医学では免疫だけを単独で考えるのではなく、体力や体質、胃腸の働き、血液や体液の巡りなどを含めて、心身全体の状態を捉えます。
では、漢方医学では「免疫」をどのように考え、治療に生かしているのでしょうか。
西洋医学と漢方医学では「免疫」の捉え方が違います
現代西洋医学では、「免疫」を「自然免疫」「獲得免疫」などに分け、免疫細胞やサイトカインなど、細胞・分子レベルで詳しく解析します。
一方、漢方医学では、現代西洋医学の「免疫力」という指標そのものを使って診断するわけではありません。患者様の体力や症状、体質などを総合的に診察したうえで、「証(しょう)」を判断して治療方針を決めます。
漢方で重視される代表的な考え方が、「虚証・実証」と「気・血・水」です。
「虚証(きょしょう)」は、体力や体の働きが不足している状態、「実証(じっしょう)」は、体力が比較的充実し、病気に対する反応も強い状態を指します。日本東洋医学会でも、虚実は体力・体質や病気に対する反応をみる重要な指標とされています。
また、「気・血・水(き・けつ・すい)」は、体の機能や栄養、体液などの状態を捉える漢方独自の概念です。「気・血・水」の過不足や巡りの滞っている状態を、バランスのとれた状態に戻すための治療を考えます。
漢方医学では、「疲れやすい」「風邪をひきやすい」「冷えがある」「胃腸が弱い」「アレルギー症状を繰り返す」といった一つひとつの症状を手がかりに、体力や体質、「虚証・実証」、」「気・血・水」の状態を総合的に判断したうえで、患者様に合ったオーダーメイドな治療を選択します。

免疫力が低いと感じる方に多い「虚証」
「風邪をひきやすい」「疲れやすい」「食欲がない」「冷えやすい」などの症状がある場合、漢方医学では体力や身体の機能が不足した「虚証」が関係していると捉えます。
例えば、アレルギー性鼻炎で透明な鼻水が多い場合には、漢方医学では体内の水分の偏りや巡りの悪さを「水毒(すいどく)」として捉えることがあります。
その場合も、鼻水だけを見るのではありません。「胃腸の働きが弱っていないか」「冷えがないか」「体力が低下していないか」など、全身の状態を確認します。
つまり、同じ「アレルギー性鼻炎」という病名であっても、患者様によって処方すべき漢方薬が異なることがあります。これが、漢方治療の大きな特徴の一つです。

患者様の症状、体質、「証」に合わせて漢方薬を使い分けます
漢方では、症状だけでなく患者様の「証」を考慮して薬を選択します。
例えば、体力が低下し、疲れやすい方には補中益気湯(ほちゅうえっきとう)や十全大補湯(じゅうぜんたいほとう)などの補剤が用いられることがあります。
胃腸が弱く、食欲が低下している場合には六君子湯(りっくんしとう)、冷えがあり下痢しやすい場合には人参湯(にんじんとう)などが選択肢となります。
また、加齢に伴う体力低下や冷え、排尿に関する症状などでは、八味地黄丸(はちみじおうがん)や牛車腎気丸(ごしゃじんきがん)などが用いられることがあります。
女性の更年期に伴うさまざまな症状では、加味逍遙散(かみしょうようさん)や当帰芍薬散(とうきしゃくやくさん)などが処方されることがあります。
ただし、これらは「免疫力を高めるための漢方薬」という意味ではありません。患者様の症状や体質、「証」に応じて処方される漢方薬の一例です。
アレルギーなど「免疫が過剰に働く場合」に漢方医学はどう対処する?
「免疫力を高めれば、アレルギーも改善するのでは?」と思われるかもしれません。
しかし、アレルギー疾患では、免疫反応が過剰に起こることが症状につながっています。そのため、「免疫力は高ければ高いほどよい」と単純に考えることはできません。
特に喘息など、症状が強く、速やかな治療が必要な場合には、吸入薬などの西洋医学的な治療を適切に行うことが重要です。
漢方薬についても、さまざまな研究が行われていますが、現時点で「漢方薬によって免疫を一律に高める、あるいは抑える」と考えるのは適切ではありません。
漢方医学では、免疫だけを単独で考えて免疫力を高める漢方薬を処方するのではなく、患者様の全身状態を確認し、その方の症状、体質や「証」に合ったオーダーメイドな治療を考えます。
西洋医学と漢方医学を組み合わせた治療
城内病院の漢方専門医は、西洋医学と漢方医学、それぞれの長所を生かした診療を行っています。
例えば、アレルギー性鼻炎の症状が強い場合には、抗アレルギー薬などで症状をコントロールしながら、冷えや胃腸の弱さ、疲れやすさなど、患者様が以前から感じている体質的な問題について漢方医学の視点から検討することがあります。
大切なのは、「漢方か西洋薬か」の二者択一ではありません。症状の程度や病気の種類に応じて、必要な治療を適切に組み合わせることです。

漢方医学では生活習慣を整えることも大切
漢方医学では、薬だけでなく日々の生活にも目を向けます。
睡眠不足、過度なストレス、偏った食生活、暴飲暴食などは、体調を崩す要因になります。十分な睡眠をとり、バランスのよい食事を心がけ、適度に体を動かすことは、健康を維持するうえで基本となります。
「免疫力を上げる」という一面的な考え方ではなく、病気になりにくい体を目指して、生活習慣を含めた全身の状態を整えていくことが、漢方医学を理解するうえで重要です。
漢方薬は医師に相談して服用しましょう
漢方薬は「自然の薬だから安全」と思われることがあります。たしかに漢方薬は西洋医薬に比べ副作用が少ないと言われることがありますが、医薬品である以上、副作用や他の薬との相互作用に注意が必要です。
例えば、漢方薬には甘草(かんぞう)を含むものが多く、使用量や服用期間などによっては、偽アルドステロン症などの副作用が起こることがあります。
そのため、複数の漢方薬を自己判断で併用したり、現在服用している薬を医師に伝えずに漢方薬を使用したりすることは避けましょう。