支持棒を持った医者のイラスト 動悸、激しい息切れ、胸痛、めまい、失神などの症状が現れる心臓弁膜症。
心臓弁膜症は症状が老化現象とよく似ているために見逃しがちな病気です。進行してしまうと、「弁」の機能不全が心臓に負担をかけ続けて重篤な心臓病になるリスクが高まります。

心臓の機能が弱って心不全症状が増悪するような重篤な状態になる前に、病院で心臓弁膜症の検査を受ける必要があります。

心臓弁膜症を見逃すと重篤な心臓病のリスクを高めます“では、心臓の4つの弁の働きと心臓弁膜症の種類についてお話しました。
今回は、心臓弁膜症の症状、原因、検査、治療について解説します。

心臓弁膜症の症状

階段を上る時息切れする高齢者のイラスト心臓弁膜症の症状は、動悸、息切れ、呼吸困難、胸の痛み、極度の疲れやすさ、さらに進行するとめまいや失神などがおこります。

初期症状の動悸や息切れなどは老化によりおこる現象によく似ているので、「高齢になったせいだ」などと軽視して弁膜症を見逃しがちです。
また軽い弁膜症にからだが慣れて症状を感じにくくなったり、自覚症状自体が現れないこともあります。

しかし自覚症状がなくても心臓に負担がかかり続けていて、心臓弁膜症がゆっくりと進行しています。治療せずに放置したことで、心臓の機能が弱って心不全症状が増悪するような重篤な状態になることもあります。

本人には自覚症状がなくても、家族や周囲の方が「階段で息切れしているよ」「歩くスピードがゆっくりになったね」などとあなたの変化に気付くことがあります。
このように周囲に指摘されたと病院を訪れて検査を受けたことで、弁膜症の早期発見につながるケースもよくあります。

心臓弁膜症の原因について

心臓弁膜症の原因には先天性と後天性があります。原因が特定できないことも多くあります。
近年増加している原因は、高齢化に伴う弁の変性や硬化でおこる機能不全です。

高齢化に伴う弁の変性や硬化とは、加齢や病気などで弁がすり減ったり傷つくことで生じます。
弁が変性や硬化してうまく開かなって血液の通り道が狭くなり、血液の流れが妨げられる状態を「狭窄」。
弁の閉じ方が不完全なために血流が逆流してしまう状態を「閉鎖不全・逆流」と呼びます。
「狭窄」や「閉鎖不全・逆流」がおこると、心臓のポンプ機能が低下し十分に血液を体の隅々まで送り出せなくなってしまいます。

とくに、静脈系の三尖弁や肺動脈弁よりも動脈系の僧帽弁や大動脈弁のほうが、血流の圧力が高いために傷ついて変性や硬化がおこりやすいため、僧帽弁と大動脈弁の弁膜症が増加しています。

心臓弁膜症の検査と診断

まず問診にて、動悸、息切れや胸の痛みなどの自覚症状があるか、症状が現れ初めた時期、いつ症状が出るか、病歴や服用している薬などを伺います。
聴診で心臓弁膜症特有の心雑音の有無を確認することも欠かせない診察です。

つぎに、心エコー検査(心臓超音波検査)、心電図検査、胸部エックス線検査や心臓CT検査などの精密検査を行って診断を確定させます。

心エコー検査(心臓超音波検査)
心臓と弁の動きを画像で見ることができる検査。弁の形や開閉の状態、狭窄や逆流の程度、心臓の大きさなどを確認。痛みを伴わず、放射線による被ばくもなく検査できることがメリット。
心電図検査
心筋肉の肥大、心臓自体の大きさ、不整脈の有無を確認する検査。
胸部X線検査
心臓の大きさや形、大動脈の異常や肺のうっ血の有無などを確認。
心臓CT検査
弁の石灰化の状態を確認する検査。

心臓弁膜症の治療とは?

心臓弁膜症の治療法は、保存的療法、外科的治療、カテーテル治療の3つです。医師が検査・診断をもとに患者様の状態に適した治療法を選択します。

心臓弁膜症は進行の程度や弁の状態によって、薬などの内科的な治療で経過観察するケースとすぐに手術が必要となるケースがあります。
ただし、保存的療法で自然治癒することのない弁膜症を根治するためには、外科的治療やカテーテル治療が必要になります。

心臓弁膜症の保存的療法

保存的療法の目的は、薬で心臓の負担を軽減し進行を遅らせることです。
よく利用される薬は、血管を広げて血液の逆流やうっ血を改善する血管拡張薬、尿量を増やすことでむくみやうっ血を改善させる利尿薬。

薬による保存的療法では弁そのものが治るわけではないので、重症になると外科的治療やカテーテル治療が必要になります。
進行状態を正確に把握するために定期的に検査を行い、医師による経過観察を必要とします。

心臓弁膜症の外科的治療

機能不全となった弁を根本的に治すには外科的治療の開胸手術が必要となります。外科的治療には、機能不全となった弁の形態を直接修復することで機能回復できる利点があります。
手術方法には、弁形成術と弁置換術の2種類があります。

弁形成術
弁の状態がひどくなければ、傷んだ部分を取り除いて縫い合わせるなど修理して機能回復させる弁形成術。弁を補強するための人工弁輪などを用いる。
メリットは自分の弁を残すことができる、術後に血を固まりにくくする抗血液凝固剤を飲む必要がない。
デメリットは弁置換術に比べて手術時間が長いこと、さらに弁の状態がひどくなれば弁置換術が必要になることも。
弁置換術
弁の状態がひどければ人工弁に取り替える弁置換術。
弁置換術は弁形成術では改善が期待できない、長い手術時間に耐えられない高齢者などに選択される。
人工弁には機械弁と、ウシやブタの生体組織を用いた生体弁の2種類がある。
機械弁と生体弁にはそれぞれメリット、デメリットがある。患者様の年齢や生活環境に応じて適す人工弁を置換する。

カテーテル治療

カテーテル治療は、太ももの付け根などから血管に細い管(カテーテル)を通し、小さく折りたたんだ人工弁(生体弁)を挿入する手術です。

カテーテル治療のメリットは、開胸の必要がないことと心臓を止める必要がないこと。
そのため患者様への侵襲(体への負担)が少なく、入院期間が短く済みます。
おもに体力が低下している高齢の患者様や他の疾患を持つ方が対象となりますが、血管や弁の状態によっては、外科的治療の方が適していることもあります。