腰椎椎間板ヘルニアは、椎間板内の髄核という組織が背中側に飛び出し、近くにある神経を圧迫する病気です。
神経が圧迫を受けると、足の痛みやしびれ、腰痛などの症状が現れます。20~60代の男性に多く、重労働や喫煙が発症の要因として挙げられます。
腰椎椎間板ヘルニアの7~8割は手術せずに保存的療法で治まります。しかし、2~3ヵ月経過しても症状が治まらず日常生活に支障がある場合は手術を検討します。
(関連リンク)
腰椎椎間板ヘルニア
腰椎椎間板ヘルニアのリハビリテーションにおける運動療法
患者様データと腰椎椎間板ヘルニアの手術に至る経過
- 名前:
- 中山隆男さん(仮名) 50代男性
- 職業:
- 運送業。荷物の配達・積み下ろし。
- 家族構成:
- 妻と子2人の4人暮らし。
- 受傷前の生活:
- 2階建て一軒家住まい。喫煙習慣あり。
- 体型:
- 中肉中背。
- 受傷時の状況:
- 仕事中に荷物を持ち上げた際、腰痛と足のしびれが出現。受傷時のしびれの程度は8。
しびれの程度を表す城内病院での基準。 - 希望されるリハビリ目標:
- 職場に復帰したい。
城内病院では患者様のしびれの程度を11段階で表現します。
(0:しびれが全くない ~ 10:耐えられないほどの強いしびれ )
仕事柄以前から腰痛があったそうですが、3ヵ月前に荷物を持ち上げた際、腰痛と足のしびれが発生し、クリニックを受診されました。
検査で腰椎椎間板ヘルニアと診断されたのち、クリニックにて保存的療法(薬物療法、注射療法、運動療法、装具療法)を実施されていました。
しかし3ヶ月間コルセットの着用を続けても痛みが引かず、仕事に集中できなくなったために手術をすることを決め、城内病院へ入院されました。
職場復帰を目指しての腰椎椎間板ヘルニアのリハビリテーション
中山さんは、「退院後、もう一度職場復帰したい」と希望されました。そのため、中山さんのリハビリの最終目標を職場復帰と設定しました。
中山さんは、城内病院で腰椎椎間板ヘルニアの一般的な手術法である内視鏡下椎間板摘出術(MED法)を施行されました。
手術後は、軟性コルセットを着用し、安全に退院できるように下表のように徐々に運動の強度を上げリハビリを進めていきます。
内視鏡下椎間板摘出術(MED法)後のリハビリテーションプロトコール(治療計画・順序)
- 手術後1日目:ギャッジアップを30°まで許可。
- 手術後2日目:ギャッジアップを60°まで許可。
- 手術後3日目:ギャッジアップを90°まで許可。トイレ・病棟内歩行許可(歩行器使用)。
- 手術後5日目:リハビリ室で歩行許可(歩行器や平行棒を使用)。
- 手術後2週目:歩行器除去。
- 手術後3週目:積極的なCore‐ex(体幹筋、足腰の筋力訓練)を行う。
腰椎椎間板ヘルニア の術後直後から2週目までのリハビリテーション
中山さんの場合、手術直後は術創部の痛みがあり、尿道カテーテル・点滴などが施されていることから、寝返りを打つことさえできませんでした。
身の回りの動作もほとんどがベッド上で行われ、介助も必要でした。食事はベッド上、排泄は尿道カテーテル・オムツ、入浴は清拭。
そのためリハビリテーションでは、ベッド上で行う簡単な足首の運動から始めました。
術後3日目になると痛みが落ち着いてきたため、痛みの出にくい起き上がりの動作練習を行い、歩行器を使って病棟のトイレに行くことが可能になりました。
術後5日目からは、リハビリ室の平行棒内で歩行訓練を始めました。その頃はまだ手術直後ということもあり、中山さんは体を動かすことに対して、恐怖心や不安を訴えられていました。
しびれも残っていることから(※しびれの程度:5)、「この調子で仕事に復帰できるのかなあ」とよくおっしゃっていました。
リハビリスタッフは、中山さんに「順調でリハビリ計画通りに進んでいますよ。」と声をかけ、不安を取り除きながら無理なくリハビリを進めていきました。
そののち歩行訓練を続けていくうちに、中山さんは徐々に恐怖心も薄らぎ、歩くことに対して自信が持ててきたようです。
腰椎椎間板ヘルニアの術後2週目からのリハビリテーション
術後2週目で抜糸して、杖を用いて歩けるようにまでなりました。
しびれも軽減し(※しびれの程度:3)痛みがなくなったことで、中山さんに職場復帰への焦りが見られるようになりました 。
まだ無理はできない時期なので、リハビリスタッフは「少しずつ出来ることを増やしていきましょうね。」と、安全に考慮した声掛けをするように心がけました。
3週目からは筋力訓練も積極的に始めたことで、歩く際のふらつきが減り、歩行距離も伸び、ちょっとした外出もできるようになりました。
杖を使わずに歩けるようになり、「これなら家にも帰れそうかな」と前向きな言葉も聞けるようになりました。
この頃から入浴ができるようになり、家での生活を想定した腰に負担のかからない動作の指導や姿勢の調整を開始しました。
腰椎椎間板ヘルニアの退院後の生活を想定したリハビリテーション
1ヵ月半が経過した頃には、中山さんは病院内での生活を問題なく行えるようになったため、退院後の生活を想定した外泊訓練を行いました。
外泊から帰ってきた中山さんは、「病院に比べて、家ではかがむことが多くて怖かった」や「とにかく疲れた」とおっしゃっていました。
一方、「車の運転はできたから、簡単な作業であれば職場復帰もできそうだ」と前向きな言葉も聞けました。
外泊訓練の経験から「退院するには何が必要か」を中山さんと再確認したうえで、腰に負担のかからない動作を復習しました。
さらに、持久力を高めるために屋外歩行や自転車エルゴメーター(エアロバイク)の訓練を追加しました。
外泊訓練を重ねて自宅での生活に自信が付いたことで、中山さんの退院予定は手術後2ヵ月後となりました。
退院が決まったことで中山さんは、退院後について職場の方と相談され、軽作業から職場復帰することを決められました。
退院時、すぐに重たいものを持つことを医師より許可されず、足のしびれもわずかに残っていました。(※しびれの程度:2)
そのために、中山さんは本格的な職場復帰を目指して、退院後も通院と外来リハビリを利用してリハビリテーションを続けられました。