アキレス腱を断裂した30代男性のケースで、アキレス腱縫合手術後のリハビリを紹介します。
患者様と担当リハビリスタッフの2人の主観視点で、実際のリハビリ訓練を見ていきます。時間経過に沿って治癒経過、具体的な訓練、2人が感じたことを具体的に記しました。
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中高年がアキレス腱断裂しやすい理由
30代男性 野口孝雄(仮名)さんのデータ
名前・性別・年齢
野口孝雄(仮名)さん 男性 38歳
職業
市役所に勤める公務員
家族構成
妻(35歳)・長女(15歳)
趣味・スポーツ
バレーボール 社会人チームに所属
症状
右アキレス腱断裂 痛みによる歩行障害やつま先立ちができない
治療法
手術療法 アキレス腱縫合術
患者様が希望するリハビリの最終目標
以前のようにバレーボールを続けたい
野口孝雄(仮名)さんからお聞きした受傷から手術を選択するまでの経緯
夜8時頃、社会人バレーの練習中、スパイクを打とうとジャンプした時に「バチッ」と音がしてその場に崩れ落ちました。
痛みはそれほどなかったが練習を続けることはできないため体育館から出ました。妻に迎えに来てもらいそのまま城内病院を受診。
病院に到着して問診、トンプソンテストを行いアキレス腱断裂の可能性があるとのこと。エコー検査とレントゲン検査も行いました。
右アキレス腱が断裂していることが判明。手術と保存療法の選択を迫られましたが決めることができず、その日は入院して様子をみることになりました。
次の日、職場の上司やチームの人がお見舞いにきて下さいました。妻も交えてこれからのことを話し合った結果、怪我をする前みたいにバレーをしたいから手術を受けることに決めました。
野口孝雄(仮名)さんのアキレス腱断裂手術後の治療プロトコール
野口さんの退院後にバレーボールを続けたいという希望に沿って、医師とリハビリスタッフは治療プロトコール(手順)を作成しました。
術後2週まで:ギプス固定・免荷(歩行時に足に体重がかからないようにすること)
術後2週から:アキレス腱ブーツ装着(状態に合わせてソール除去) 自動可動域訓練開始
術後3週から:他動可動域訓練開始 OKC(体の末端を動かして行う運動)での筋力訓練開始(セラバンド等)
術後5週から:訓練室にて装具を外して歩行訓練開始 荷重訓練開始
術後7週から:装具取り外し CKC(体の末端を固定されており行う運動)での筋力訓練開始(カーフレイズ等)
術後8週から:段差昇降訓練開始 退院許可
術後10週から:ジョギング開始
術後4か月から:軽い運動開始
術後5か月から:スポーツ復帰
患者様野口さんから見たアキレス腱断裂手術後のリハビリ
手術直後からギプスで足関節は固定されました。
次の日から、歩くときに足に体重がかからないようにする移動方法を獲得するために、松葉杖での免荷歩行訓練を行いました。その他にも患部外のトレーニングを行いました。
約2週間後からは、アキレス腱に負担をかけないようにアキレス腱ブーツを使用。この時期から自分で動かす可動域訓練、抜糸後の創部の癒着や下腿の筋肉の柔軟性を保つために過流浴(装置により温水での温熱刺激に加えて、装渦流や気泡によりマッサージ効果も得られる温浴療法)も行うようになりました。
約3週間後から、リハビリスタッフの助けを受けて動かす可動域訓練を開始。セラバンドでの足関節底背屈の抵抗運動も行っていきました。
状態に合わせてブーツのソールを段階的に外されました。
約5週間後からは、リハビリ室でのみ装具を外して歩行訓練を開始しました。
スタッフに私の状態を確認してもらいながら、痛みに合わせて荷重をかける歩行訓練を行いました。
約7週間で普段の生活でもアキレス腱ブーツを外してよいと許可が出ました。さらに両脚での踵上げの運動を開始。
約8週間で段差昇降訓練を開始。退院許可がでるまでに回復したので、私の都合と合わせて退院時期を検討しました。
約10週間で片脚での踵上げ運動を行い、軽いジョギングも状態が良ければ許可されました。
4か月で軽い運動から徐々にスポーツを始めることを医師により許可されました。
5か月で社会人チームでのバレーボールに復帰できました。
アキレス腱断裂手術後にリハビリスタッフが実際に行ったリハビリ
担当リハビリスタッフが野口さんに実際に行ったリハビリを経過に沿って具体的に紹介します。
アキレス腱断裂術後2週まで
患部は固定。術後の熱感や痛みなどが出現したため、患部にアイシングを行い熱感や腫脹(はれ)の改善を図りました。
さらに患部以外の膝・股関節などの可動域訓練を行い、安静による筋肉の固まりを予防。
移動は松葉杖での免荷歩行を訓練しました。
他にも、右の足部以外の下肢と体幹の筋力訓練やバランス訓練を実施。筋力の維持を目的に腹部の体幹を鍛えるフロントクランチやサイドクランチなどを行いました。
アキレス腱断裂術後2週から
アキレス腱ブーツを装着してアキレス腱の伸張を防止した状態で荷重訓練を開始。
筋の柔軟性低下や軟部組織の癒着を防止する目的で、装具を外した状態での自動可動域運動も行いました。
アキレス腱断裂術後3週から
松葉杖を外して装具を装着した状態での歩行訓練を開始。
他動でのストレッチを行い可動域の向上を図りました。最初、野口さんは少し張ったような痛みがあると訴えられましたが徐々に軽減しました。
安静期間に筋が委縮して筋力低下が見られたため、セラバンド(エクササイズ用のゴムバンド)や徒手で筋力訓練を行いました。
力の衰えを感じた野口さんは落ち込まれましたが、やればやるほど力が入りやすくなっていき、気持ちも徐々に上向きになられました。
アキレス腱断裂術後5週から
リハビリ時のみ装具を外した状態で荷重訓練開始。
体重計を使用して荷重を確認。痛みがでなかったため、平行棒内で支持しながら歩行訓練も開始しました。
野口さんは久しぶりに自分の足だけで歩かれ嬉しそうな様子。慣れてきたため支持を外すことも可能に。リハビリに対しての意欲も上がってこられました。
アキレス腱断裂術後7週から
普段の生活で装具が外すことが医師により許可されました。
自重を利用しての筋力訓練が出来るようになったため、手摺りや体重計を利用して負荷量を調節しながら、カーフレイズ(つま先立ちしての踵の上げ下げ)やスクワットを行いました。
アキレス腱断裂術後8週から
野口さんは階段昇降訓練が出来るほどに回復され、日常生活動作での不自由はほとんど解消されました。
最初は手摺りがないと難しそうでしたが、最後には手摺りもなく階段を昇り降りすることができるように。
ドクターからの退院許可がでたため、野口さんはご家族と相談されて退院をされました。今後のリハビリは通院で行っていくことになりました。
アキレス腱断裂術後10週から
これ以降は通院でのリハビリとなります。
短い距離のジョギングを開始。
野口さんは走ることができたのでスポーツ復帰の希望が見えてきたと喜ばれていました。
自重以上の負荷でカーフレイズ、平行棒内で支持をしながらジャンプ動作も始めました。
アキレス腱断裂術後4カ月から
軽い運動をできるようになるため支えのないジャンプ練習を試しましたが、恐怖心があり最初はなかなか強くジャンプをすることができませんでした。
このころから社会人チームのバレーボール練習の一部に参加ができるようになりました。負荷や痛みの確認に留意して復帰してもらいました。
練習に参加すると今まで使っていなかった部位、背中、肩や肘に痛みが出たため、ストレッチやリラクゼーションを行って様子をみました。
アキレス腱断裂術後5カ月から
野口さんはスポーツ復帰されました。しかし、時折痛みが様々な部位にでるため、そのたびに来院して調整のためのリハビリを継続されています。
リハビリテーションを終えて ~リハビリスタッフの所感~
アキレス腱断裂した野口さんは、長期間のリハビリが必要になるスポーツ復帰を目的とされた患者様だったので、患部以外の部位にもアプローチすることの大切さも考慮してリハビリを実施しました。
時期ごとに達成すべき目標があったため、それに遅れがでないように焦りながらも慎重にリハビリを実施しました。
野口さんから「今回、けがをしてみて自分の身体がこんなにも固く衰えていることを知り、今後もバレーを続けていくためには運動前後のケアの重要性を感じることが出来ました」という言葉を頂き、患者様にセルフケアの大切さを気づいて頂くことができたことに嬉しさを覚えました。