作業療法は、食事やトイレ動作などの日常生活動作の獲得、心身の機能回復・機能維持を目的に行うリハビリテーションです。
城内病院での作業療法対象疾患を大まかに分けると、脳梗塞、上肢骨折、認知機能低下の3つの症状です。
本記事では、脳梗塞の診断を受けて城内病院へリハビリ目的にて入院された患者様が、入院から退院までに行う作業療法を紹介します。
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脳梗塞の患者様のデータ:田中友子さん(仮名)の場合
- 患者様情報:
- 田中友子さん(仮名)女性 60歳
- 職業:
- 専業主婦
- 利き手:
- 右手
- 症状:
- 右麻痺。右の手に痺れ、温度感覚低下、右半身への意識低下。
- 田中さんの訴え:
- 痺れにより感覚が分かりにくい。手足が思うように動かない。
- 田中さんのご希望:
- 退院後、以前と同じように料理が出来るようになりたい。
入院当初の脳梗塞リハビリの作業療法
田中さんの右手の痺れに対して、血流を促すためにマッサージするリラクゼーションを行いました。リラクゼーションは神経の興奮を減少する効果があります。
またボール、粘土やビーズに触れて握る感覚入力も行いました。この場合の感覚入力とは、触覚だけでは痺れて理解できなかった感覚を、視覚を利用して正しい感覚を頭に伝えることです。
交互浴で血行促進
温かいや冷たいなどの感覚障害に対して、氷水と渦流浴(お湯でマッサージする機械)を利用して冷水と温水の交互浴を行いました。
交互浴は温度差により単浴より体温が上昇するため、血行を促進します。また、神経の興奮を落ち着かせる作用も働きます。
姿勢鏡を使った可動域訓練
肩、肘、手指の可動域訓練に対しては、田中さん自身の動きを確認するために姿勢鏡を使用しました。
姿勢鏡で自身の動きを確認することで、動作範囲を理解することができます。痺れのある右半身を忘れることを減らしていくことに効果があります。
可動域訓練時に、作業療法士が声掛けを行うことで、右麻痺側への意識付けもしました。
ベッド上での起き上がり動作に対して
ベッド上での起き上がり時に、田中さんは右麻痺側の手足を忘れて寝返り動作を行っていました。
そのため、正しい起き上がりの動作をコマ割りした写真を、作業療法士が田中さんの見やすい所に貼り、起き上がりの参考にしていただきました。
筋力低下による麻痺側肩の亜脱臼に対して
脳梗塞による麻痺症状のある患者様は、麻痺側使用頻度が減少するために筋力低下が多く見られます。
そのため、麻痺側の肩(田中さんの場合は右肩)が、腕の重さで下垂し亜脱臼を起こしやすいため、病棟内歩行時にはエプロンを着用してもらい、ポケットに手を入れて亜脱臼を防止しました。
また、田中さんは肩の痛みも強く出現したため、エプロンを着用してポケットに手を入れることで痛みを緩和できました。
退院後を見据えた脳梗塞リハビリの作業療法
入院から4ヶ月経過して、田中さんの痺れは指先に少し残存した状態ですが、温度感覚は把握することができています。
また、右麻痺側の手足を忘れることはなくなりました。
右手は肩の高さまで挙げることができましたが、フライパンや鍋などを持って挙げることは困難でした。
そのため、田中さんとご家族を交えて身体状態についての話し合いを行い、料理はご家族にお願いすることになったため、田中さんのリハビリのゴールを台拭きや洗濯などの簡単な生活動作獲得に変更しました。
簡単な生活動作獲得のための訓練
台拭き訓練は、立った姿勢でタオルを両手で右へ左へと肩から誘導しながら行いました。 タオル畳みや洗濯干し訓練では、実際に午前中に洗濯機を回して干すまでを行い、午後に乾いた洗濯物を取り込み畳むまでを行いました。
作業療法士は、動作指導を行うだけでなく動作に段階付けを行い、田中さんが無理なくできることを増やしていけるように配慮しました。
脳梗塞リハビリの作業療法のまとめ ~退院に際して~
田中さんは自宅退院となりましたが、退院後の身体状態の維持、向上のために外来リハビリテーションに通院することとなりました。
田中さんは、入院時に希望された料理を作ることができるまでは回復されませんでしたが、退院時には洗濯物を畳んだり、台拭きなどの家事動作を獲得することができました。
最初は手足が思うように動かず、涙を流しリハビリを諦めることが多かった田中さんが、「少しでも出来ることが増えてよかった」と笑って退院されました。
田中さんが退院されたのちに、作業療法士として考えることは、入院当初の予後予測がより明確であればリハビリの最終目標を途中で変更せずに済み、よりリハビリ成果が上がったのではないかということです。