屈筋腱は前腕の筋肉から発せられた力を指の先端まで伝えて、指を屈曲させる腱。
前腕から指先までつながっていて、指の骨に付くかたちで親指には長母指屈筋腱が1本、他の指には深指屈筋腱と浅指屈筋腱の2本があります。
そして各指の屈筋腱は、指を曲げた時に屈筋腱が浮いてこないように腱鞘というトンネル構造の中を通っています。
これらの指を曲げるための屈筋腱が、刃物などで切れて損傷することを指の屈筋腱損傷と呼びます。
包丁やカッターなどの刃物を使う仕事や趣味をお持ちの方に多く見られるケガです。
屈筋腱を損傷するとケガをした指が曲がらなくなり、様々な生活動作に支障をきたすようになります。
指の屈筋腱損傷の症状は?
指を曲げる働きをする屈筋腱が切れると指は曲がらなくなります。
ただ、症状は刃物などで手のどの部分を切ったか、また損傷の程度で異なります。
指の第1関節付近で深指屈筋腱だけを切った場合は、第1関節のみが曲がらなくなります。
指の第2関節から手のひら、手首のどこかで深指屈筋腱と浅指屈筋腱の両方が切れた場合は、第1関節と第2関節ともに曲がらなくなります。
手のひらや手首を切ったケースでは、1本の指だけでなく複数の指が曲がらなくなることもあります。
また受傷時、屈筋腱だけでなく並走する神経や血管が同時に切れることもがあります。手首や手のひらの神経や血管を損傷すると、指の運動に支障が出る感覚障害や止まりにくい出血などを併発することがあります
指の屈筋腱損傷の原因
指の屈筋腱損傷の原因の多くは、刃物などで指、手のひらや手首を切って皮下にある屈筋腱が損傷するケースです。
他には、指をドアなどで挟む外傷、変形性関節症・炎症などで屈筋腱が損傷するケース、事故などで指が手の甲側に強制的に反らされると生じる剥離骨折(屈筋腱の付着部が指の骨から剥がされる)があります。
指の屈筋腱損の検査と診断
まず刃物などで切ったケガならば、受傷の部位や状態を確認します。屈筋腱が損傷していれば、指が曲がらないことで診断できます。
親指以外には深指屈筋腱と浅指屈筋腱があり、深指屈筋腱だけが切れているケースでは第1関節だけが曲がらなく、深指屈筋腱と浅指屈筋腱の両方が切れているケースでは第1関節・第2関節ともに曲がりません。
事故などの強い外力により屈筋腱を損傷したケースでは、指や手の骨の骨折の有無を確認するために、X線検査やCT検査を行うこともあります
指の屈筋腱損傷の治療とは?
ケガの部位や程度、腱の断端の状態、受傷からの経過時間によって治療法・手術法は異なります。
受傷後なるべく早くに腱縫合手術を行う必要があります。時間が経ってしまうと、腱の中枢部は筋肉に引っ張られて、引っ込んでしまうためです。
受傷直後なら傷口は開いていて、腱も切れた部位に近いところにあるため縫合が可能です。
屈筋腱は浮いてこないように腱鞘というトンネル構造の中を通っています。
この腱鞘とともに屈筋腱が切れたケースでは、腱鞘部分を残したうえで縫い合わせた腱が腱鞘内を滑らかに動けるように縫合する必要があります。
そのため顕微鏡視下で強固な糸の掛け方で縫合し、かつ縫い目が太くならないようにする繊細な手術が必要となります。
術後数週間以上が経過していて縫合手術ができない場合は、腱移行術や腱移植術が選択されることもあります。
縫い合わせた腱と周囲組織が癒着しないようにするために、術後早期にリハビリを開始することが重要です。
再断裂の危険性もあるため、手外科医やリハビリスタッフの指導に従って、プログラムに沿った手指の運動訓練が3ヵ月間ほど必要となります。
イラスト出典:一般社団法人 日本手外科学会 手外科シリーズ 12 屈筋腱損傷