膝蓋骨(しつがいこつ)は、一般に「膝のお皿」と呼ばれる骨です。この骨は、膝を伸ばす動作に合わせて太ももの骨(大腿骨)にある溝(滑車溝)の中を上下に滑らかに動いています。
膝蓋骨脱臼とは、この膝蓋骨が何らかのきっかけで本来の位置(大腿骨滑車溝)から主として外側へずれて外れてしまう状態を指します。
10代の女性やスポーツをしている若年層に比較的多く見られ、一度脱臼すると、膝蓋骨を支える靭帯が損傷し不安定になるため、再び外れやすくなる(反復性脱臼)という特徴があります。
膝蓋骨脱臼は初回脱臼でも靭帯や軟骨に重度の損傷を伴うことがあります。再発を防ぐためにも、違和感や不安定感を覚えた場合は、放置せず早期に整形外科を受診し、正確な診断と適切な治療・リハビリ指導を受けることが重要です。

膝蓋骨脱臼の受傷契機(原因)とは?
膝蓋骨脱臼の主な受傷契機は、スポーツ外傷、直接外力、解剖学的・素因的要因が挙げられます。
- スポーツ外傷:
サッカーやバスケットボール、陸上競技などで、膝が軽く曲がった状態で、足が地面に固定されたまま外反と外旋の力が加わる動作(急な方向転換や着地など)で発生しやすい。 - 直接外力:
:膝蓋骨に内側から外側に強い衝撃が加わった場合にも起こる。 - 解剖学的:
・素因的要因:生まれつきの骨の形や並び方に特徴がある場合、脱臼のリスクが高まる。滑車形成不全(大腿骨の溝が浅い)、 膝蓋骨高位(膝蓋骨が通常より高い位置にある)、下肢アライメント異常(X脚など)など。

膝蓋骨脱臼の主な症状
初回脱臼時には、以下のような急性期の症状が見られます。
- 膝の激しい痛みと変形(膝蓋骨が外側にずれて見える)。
- 強い腫脹や関節内血腫(関節内に血がたまる)。
- 膝をまっすぐに伸ばせないなどの可動域制限。
また、再発性脱臼の場合や脱臼が自然に整復された後でも、「膝が外れそう」「ガクッと崩れる」といった膝崩れ感や不安定感を訴えることがあります。
自然整復された場合でも、膝の中に靭帯や軟骨の損傷が残っている可能性があるため、必ず整形外科を受診してください。
膝蓋骨脱臼の病態
膝蓋骨が外側に脱臼する際に、周囲の組織が損傷します。
内側膝蓋大腿靭帯(MPFL)損傷
膝蓋骨の内側安定性を担う重要な靭帯です。初回脱臼時に多くの場合損傷・断裂します。MPFLが損傷すると、膝蓋骨を中央に引き留める力が弱くなり、不安定な状態(膝蓋骨不安定症)となり、再発しやすくなります。
軟骨・骨の損傷
脱臼時に膝蓋骨と大腿骨が衝突し、関節軟骨損傷や骨軟骨片の剥離(骨や軟骨の一部がはがれ落ちる)を伴うケースがあります。この骨片が関節内に残ると、痛みの原因や膝の引っかかりの原因になります。
膝蓋骨脱臼の検査・診断について
正確な診断のためには、診察(徒手検査)と画像検査を組み合わせて行います。
診察(徒手検査)
- 脱臼時変形や圧痛(MPFL付着部など)の確認
- Apprehension test(不安テスト):
膝蓋骨を外側へ押した際に、患者様が「外れる」という不安感や恐怖感を訴えるかを確認する。
画像検査
- X線検査:
膝蓋骨の位置異常、骨折や骨片の有無、また滑車低形成や膝蓋骨高位などの素因を確認する。 - MRI検査:
内側膝蓋大腿靭帯(MPFL)の損傷の程度、骨挫傷、骨軟骨損傷の有無など、軟部組織の状態を詳しく評価するために最も有用。 - CT検査:
骨の形態異常(滑車溝の深さ)や脛骨粗面の位置など、骨のアライメント評価に役立つ。
膝蓋骨脱臼の治療法
初回脱臼で膝蓋骨が外れている場合は、まず正常な位置に整復し、強い痛みや手術が必要なほどの大きな骨折がなければ保存的療法を選択します。
初回脱臼だが反復性になりやすい素因があるケース、反復性脱臼で日常生活やスポーツに制限があるケース、脱臼時に比較的大きな骨折を伴っているケースなどでは手術が選択されることがあります。
代表的な手術法は、MPFL再建術(靭帯を再建し、膝蓋骨が外側へずれるのを防ぐ手術)です。
膝蓋骨脱臼の保存的療法
- 整復:
徒手的な操作で外れた膝蓋骨を正しい位置に戻す。 - 固定:
整復後、膝を伸ばした状態で2〜3週間ほど膝装具などで固定し、安静を保つ。 - リハビリテーション::
固定解除後、大腿四頭筋(特に内側広筋)の筋力強化や外側組織のストレッチ、バランス訓練などを実施する。
膝蓋骨脱臼の再発予防・リハビリのポイント
再脱臼を防ぐためには、筋力バランスの回復と正しい動作習慣の獲得が不可欠です。
- 内側広筋の筋力強化:
膝蓋骨を内側に引きつけ安定させるため、太ももの内側の筋肉を重点的に鍛える。 - 柔軟性の維持:
太ももの外側にある外側広筋や腸脛靭帯の柔軟性を保ち、外側への引張力を軽減する。 - 装具の活用:
スポーツ再開時などで再発リスクが高い状況では、外側偏位を抑える専用の膝装具やサポーターの着用を推奨。