「心不全」という言葉を聞くと、多くの人が「心臓が止まってしまうこと」だと誤解しがちですが、医学的な定義は少し異なります。
心不全とは、特定の病名というよりも、心臓のポンプ機能が低下し、息切れやむくみが起こり、だんだんと悪化して生命に関わる重大な病態を指します。
あらゆる心臓疾患の「終着駅(進行した姿)」とも呼ばれますが、現在は治療薬の進歩により、早期発見と適切な治療、生活管理によって、症状を抑えながら長期的に安定した生活を送ることが可能です。本記事では、高齢化社会で急増する「心不全」について詳しく解説します。
「少し息が切れるな」「急に体重が増えた」「夜に咳が出る」といった小さな変化は、心臓からのSOSかもしれません。
気になる症状がある方、または健康診断で「心拡大」や「心雑音」を指摘された方は、お早めに城内病院循環器科までご相談ください。
また、心不全は再発を繰り返しやすい病気です。退院後の外来での経過観察も重要です。
心不全の症状とは?
心不全の症状は、心臓のポンプ機能が低下して全身に血液を十分送り出せない状態「低心拍出状態」と、血液の流れが滞ってしまう「うっ血」の2つのメカニズムによって引き起こされます。
左心系の症状:呼吸に関わる異常
全身に血液を送り出す左心室の機能が滞ると、肺に血液が溜まり(肺うっ血)、以下のような症状が現れます。
- 息切れ・呼吸困難:
最初は階段や坂道での息切れですが、進行すると安静時や就寝時にも苦しくなる。 - 起坐呼吸(きざこきゅう):
横になると肺が水に浸かったような状態になり苦しいため、起き上がって座ることで呼吸を楽にしようとする状態。これは重症化しているサイン。 - 咳・喘鳴(ぜんめい):
特に夜間や横になった時に咳が出やすくなる。
右心系の症状:全身のむくみ
全身から血液を迎え入れる右心系の機能が低下すると、体全体に水分が滞留します。高齢者の場合、これらのサインを「老化現象」や「ただの風邪」と勘違いして見逃してしまうことも多いため、周囲の注意が必要です。
- むくみ(浮腫):
足の甲やすねを指で押すと跡が残るようなむくみが出ます。 - 急激な体重増加:
体内に水分が溜まるため、数日で2〜3kg増加することがある。
心不全の原因
心不全の原因は多岐にわたり、心臓そのものの異常だけでなく、全身性の要因も関わっています。以下に心不全のおもな原因を挙げます。
- 虚血性心疾患:
狭心症や心筋梗塞によって心臓を栄養する血管である冠動脈の血流が低下または途絶して心臓の筋肉に血流が十分に行かなくなる。 - 高血圧:
長期間にわたり高い血圧にて心臓に過度な負担がかかることで、心筋が厚くなり機能が低下する。 - 弁膜症:
心臓内の「扉」である弁の開閉がうまくいかなくなり、心内圧たかまり、血流が滞る。 - 不整脈:
心房細動などが原因で心拍のリズムが乱れ、効率よく全身に血液を送れなくなる。 - 加齢:
特定の病気がなくても、長年使い続けた心臓の筋肉が弱まることで発症することもある。 - その他:
糖尿病、慢性腎疾患、肺炎などの感染症、生活習慣(喫煙・肥満・アルコール摂取)も悪化要因となる。
心不全のタイプとは?
心不全は、その進行度や病態によっていくつかのタイプに分類されます。
急性と慢性による分類
- 急性心不全:
昨日まで元気だった人が、数日から1週間程度の短期間で急激に状態が悪化するタイプ。緊急入院と迅速な治療が必要な場合が多い。 - 慢性心不全:
適切な治療で安定しているものの、心機能が低下した状態が長く続いているタイプ。
ポンプ機能による分類(左室駆出率=EF)
現代の診断では、心エコー検査で測る左室駆出率(EF:心臓が血液を送り出す割合)が重要視されます。
- HFrEF(ヘフレフ):
収縮機能が40%以下に低下した、心臓のポンプとして押し出す力が弱く全身に十分に血液が送りだすことができないタイプ。 - HFpEF(ヘフペフ):
収縮機能は50%以上に保たれているものの、主に心臓の拡がる力が弱くなって十分に全身からの血液が心臓に戻れないタイプ。高齢者や女性に非常に多く見られる。
心不全の検査と診断
心不全の検査には、「何が原因かを見つけること」と「今の重症度(ステージ)を確認すること」の2つの目的があります。
以下の検査を組み合わせて総合的に診断します。
- 問診・身体診察:
息切れの程度や体重増加、足のむくみを確認する。 - 血液検査(BNP / NT-proBNP):
心臓に負担がかかると分泌されるホルモンの値を測る。単独で確定はできないが、数値が高いほど心不全である可能性が高く、有効な指標となる。 - 胸部X線検査(レントゲン):
心臓の拡大や、肺のうっ血、胸水の有無を確認。 - 心電図:
不整脈や心筋へのダメージ(虚血性変化)がないかを調べる。 - 心エコー(心臓超音波検査):
リアルタイムで心臓の動き、壁の厚さ、弁の状態を確認し、EF(駆出率)を算出します。心不全診断において極めて重要な検査です。
心不全の治療について
心不全の治療は、症状を和らげることと、病気の進行を抑えて長生きすること(生命予後の改善)を目的に行われます。
心不全の薬物療法
近年、慢性心不全の治療薬は飛躍的に進歩しました。「ファンタスティック・フォー」と呼ばれる以下の4つの主要薬剤を中心に、心臓の保護を図ります。
- ACE阻害薬 / ARB / ARNI:
血管を拡張し、心臓の負担を減らす薬。 - β遮断薬:
心拍数を整え、心臓の過剰な働きを抑える。 - SGLT2阻害薬:
元々は糖尿病の薬、心不全症状の改善に有益であることが判明。 - MRA (ミネラルコルチコイド受容体拮抗薬):
体内の水分や塩分バランスを調整し、心臓の負担を減らす。
生活改善(セルフケア)による心不全治療
心不全は一度良くなっても、無理をすると再発を繰り返して進行してしまいます。日々の管理が不可欠です。また、禁煙や節酒、十分な睡眠も心臓を守る大切な要素です。
- 塩分制限:
1日6g未満を目安に。 - 体重管理:
毎日同じ時間に体重を測ることで、体液貯留を早期に発見しましょう。 - 適度な運動:
過度な安静は筋力低下を招くため、体調に合わせた心臓リハビリテーションが推奨される。