「ある日突然、手足に力が入りにくくなった」、「数日前に風邪を引いた後から、手足がジンジンとしびれる」、このような症状が急激に現れ、数日から数週間のうちに進行していく病気が、ギラン・バレー症候群(Guillain-Barré syndrome:GBS)です。

聞き慣れない病名かもしれませんが、日本では年間10万人あたり約1〜1.5人が発症するとされており、決してごく一部の人だけに起こる特殊な病気ではありません。
小児から高齢者まであらゆる年代で発症する可能性があり、重症化すると呼吸困難に陥ることもあるため、早期の発見と適切な治療が非常に重要です。

本記事では、ギラン・バレー症候群の原因から症状、診断、治療、そして回復に向けたリハビリテーションまで、詳しく解説します。

ギラン・バレー症候群とはどんな病気?

ギラン・バレー症候群は、自分の免疫システムが誤って自分自身の「末梢神経」を攻撃してしまう自己免疫疾患の一種です。
末梢神経とは、脳や脊髄(中枢神経)から枝分かれして全身に広がり、脳からの命令を筋肉に伝えたり、皮膚で感じた感覚を脳に伝えたりする、いわば「電線」のような役割を担っています。
この電線が傷つくことで、脳からの信号がうまく伝わらなくなり、手足の脱力やしびれといった症状が引き起こされるのです。

ギラン・バレー症候群の発症のきっかけと原因

この病気の大きな特徴は、発症の1〜4週間前に、風邪や胃腸炎などの感染症にかかっているケースが約7割にものぼることです。

本来、免疫は外から侵入したウイルスや細菌を攻撃して体を守るための仕組みです。しかし、特定の感染症をきっかけに作られた「抗体」が、誤って自分自身の末梢神経を攻撃対象として認識してしまう「免疫の誤作動」が起こることがあります。
原因(先行感染)となりやすい病原体には、以下のようなものがあります。

  • カンピロバクター: 鶏肉の加熱不足などによる食中毒の原因菌。先行感染として最も頻度が高い。
  • サイトメガロウイルス・EBウイルス: ヘルペスウイルスの一種や、伝染性単核症の原因ウイルス。
  • マイコプラズマ・インフルエンザウイルス: 呼吸器感染症の原因となる病原体。

なお、ごくまれにワクチン接種後に発症する例も報告されていますが、その頻度は極めて低く、感染症そのものによる発症リスクの方が高いと考えられています。

ギラン・バレー症候群の主な症状と経過

ギラン・バレー症候群の症状は、通常左右対称に現れ、時間の経過とともに変化していくのが特徴です。症状は発症から2〜4週間以内にピークを迎え、その後は徐々に回復に向かうのが一般的な経過です。

手足の脱力・麻痺

多くの場合、足先や手先など、体から遠い部分(末梢)から症状が始まる。最初は「足に力が入りにくく、階段が登りにくい」「手に力が入らず、物を落としてしまう」といった自覚症状から始まり、数日のうちに症状が体に近い方へと上がってくる(上行する)傾向がある。

しびれや感覚異常

手足の指先のピリピリ感やジンジンする感覚、あるいは感覚が鈍くなるといった異常が現れる。

深部腱反射の低下

診察で医師が膝などを叩いた際に起こる「膝蓋腱反射」が弱くなったり、消失する。これは、膝蓋腱反射が起こるために必要な脊髄を介した末梢神経経路の反射弓が障害されており、本疾患の特徴的な所見の1つ。

脳神経や自律神経の障害

症状が進行すると、顔の筋肉が動かしにくい(顔面神経麻痺)、物が二重に見える(眼球運動障害)、食べ物が飲み込みにくいといった脳神経症状が現れることがある。また、血圧の変動や不整脈、発汗異常、排尿障害といった自律神経の乱れが生じることもある。

呼吸筋のまひ(重症例)

最も注意すべき症状は、呼吸をするための筋肉が麻痺すること。自力での呼吸が困難になった場合は、人工呼吸器による緊急の管理が必要になる。

ギラン・バレー症候群の主な症状と経過イラスト

ギラン・バレー症候群の検査と診断

ギラン・バレー症候群が疑われる場合、以下の検査を組み合わせて総合的に診断します。

  • 髄液検査(腰椎穿刺)
    腰の骨の間から脊髄液を採取する。発症から1~2週間経つと、細胞数は増えていないのにタンパク質の数値だけが上昇する「蛋白細胞解離」という特徴的な所見がみられる。
  • 神経伝導検査
    皮膚の上から神経に微弱な電気を流し、信号の伝わる速さや大きさを測定する。神経のどの部分がどの程度傷ついているかを客観的に評価する。
  • 血液検査・抗体検査
    末梢神経を攻撃している「抗ガングリオシド抗体」の有無や、先行感染の原因を調べる。
ギラン・バレー症候群の検査と診断のイラスト

ギラン・バレー症候群の治療について

重症化のリスクがあるため、診断がついた段階で速やかに入院し、治療を開始することが推奨されます。主な治療法は以下の2つです。

  • 免疫グロブリン大量静注療法(IVIg)
    健康な人の血液から精製した「免疫グロブリン」を5日間かけて点滴投与する。異常な免疫反応を抑える効果があり、現在、第一選択として広く行われている。
  • 血液浄化療法(血漿交換療法)
    血液を一度体外に取り出し、専用の装置で原因となっている抗体などを除去して体に戻す方法。免疫グロブリン療法と同等の効果が期待される。

これらの治療と並行して、呼吸状態や血圧のモニタリング、痛みを和らげる治療などの全身管理が行われます。

ギラン・バレー症候群に不可欠な早期リハビリテーション

ギラン・バレー症候群は、適切な治療を受ければ、多くの患者様が日常生活に戻ることができる病気です。
しかし、回復には個人差があり、数か月から1年以上かかることも少なくありません。また、筋力低下やしびれなどの後遺症が残る場合があります。

回復を最大限に促し、関節が固まる(拘縮)のを防ぐためには、早期のリハビリテーションが不可欠です。急性期のベッドの上での関節可動域訓練から始まり、回復状況に合わせて「座る」「立つ」「歩く」といった動作訓練を段階的に進めていきます。

ギラン・バレー症候群におけるリハビリテーション段階のイラスト

このような症状があれば、すぐに受診を!

以下の症状が急に現れた場合は、決して自己判断で放置せず、速やかに病院を受診してください。ギラン・バレー症候群は、早期診断・早期治療が重症化を防ぎ、スムーズな回復への第一歩となります。

  • 手足の力が急に入りにくくなった。
  • 足のしびれや脱力が、数日のうちに上に広がっている。
  • 息苦しさ、声の出しにくさを感じる。
  • 飲み込みにくい(嚥下障害)。
  • 数週間前に風邪や下痢があった後に、上記の症状が出てきた。
ギラン・バレー症候群のすぐに相談・受診するべき項目のイラスト