心不全とは、心臓のポンプ機能が低下し、全身に必要な血液を十分に送り出せなくなった状態を指します。
心不全には大きく2つのタイプがあります。一つは心臓の「収縮機能」が低下するタイプ(HFrEF)、もう一つは収縮機能は保たれているものの、心臓が血液をうまく受け入れられなくなる「拡張不全」(HFpEF:ヘフペフ)と呼ばれるタイプです。

高齢者に非常に多く見られるのが、この後者のHFpEF(ヘフペフ)です。心臓が血液を押し出す力は問題ないにもかかわらず、心臓が血液を迎え入れる機能が低下していることから、症状が分かりにくく、発見が遅れがちになります。

高齢者の心不全は、症状が出にくく発見が遅れやすい一方で、一度悪化すると全身の状態に深刻な影響を与える病気です。
「むくみ」「体重の急増」「倦怠感」など、日頃からの小さな変化に気づいて、早期発見・早期介入することで、その後の生活の質と予後は大きく左右します。

心不全の管理は、心臓だけを診るのではなく、そのほかの臓器障害合併の有無や心不全症状改善による生活の質全体を支える視点で行うことが重要です。気になる症状があれば、お気軽に城内病院循環器内科にご相談ください。

(関連リンク)
心不全とは? ~ポンプ機能の低下が招く「心臓のSOS」を知る~

見逃しやすい!高齢者特有の症状

心不全の典型的な症状は「動いたときの息切れ」ですが、高齢者の場合、その症状が分かりにくいことが大きな特徴です。
よく見られる症状として、以下のものが挙げられます。

  • なんとなく体がだるい・疲れやすい。
  • 足や顔のむくみ(浮腫)。
  • 体重の急激な増加。数キロ単位、とくに数日で2〜3kg増えたら要注意。
  • 最近、食が細くなった、食べられなくなった。
高齢者の心不全 気づきと見逃しの危険性のイラスト

これらは「年のせい」や「認知症の症状」として見過ごされやすく、本人が自覚しにくいという問題があります。「風邪をきっかけに悪化する」だけでなく、「風邪と思って受診したら実は心不全だった」というケースも少なくありません。

特に注意が必要なのがむくみです。膝より下の足を指で押さえて跡が残るような「圧痕性浮腫」がある場合は、体内に水分が溜まっているサインである可能性があります。
体重が短期間で急に増えたと感じたら、早めに受診することをお勧めします。

フレイル・サルコペニア・認知症と高齢者の心不全の深い関係

高齢者の心不全が特に危険とされる理由の一つが、フレイル((加齢に伴う心身の虚弱状態)・サルコペニア(筋肉量の低下)・認知症との悪循環です。

心機能の低下は全身の体力を奪い、活動量の低下がさらに心機能を悪化させます。加えて、心不全による入院を繰り返すたびに認知症が進行したり、フレイルが悪化したりするリスクが高まります。
一度この悪循環に入ると、そこから抜け出すことが難しく、生命予後にも大きく影響します。心不全は、心臓だけの問題ではなく、全身の老化を加速させる病気でもあるのです。

高齢者の心不全の治療:薬・食事・リハビリの三本柱

薬物療法では、体内の余分な水分を排出する利尿剤が基本となります。また近年は、心臓と腎臓の両方を保護する効果が注目されているSGLT2阻害剤も広く使われるようになっています。SGLT2阻害剤の服用時は、脱水や体重減少に注意しながら慎重に経過をみます。
また、心臓のポンプ機能が低下したタイプ(HFrEF)の場合には、ベータブロッカーやACE阻害剤、ARNI(エンレスト)など、さらに多くの治療薬の選択肢があります。

食事療法(減塩)も薬物療法と同じくらい重要です。塩分は体内に水分を溜め込み、心臓への負担を増やします。重症度に応じて、1日6g未満を基本とし、重症時のみ医師の厳格な指導下で行います。
単に薄味にするだけでなく、出汁や酸味を活かして美味しく食べることや、筋肉を維持するためのタンパク質摂取も大切です。

心臓リハビリテーション(運動療法)も欠かせません。「心不全だから安静に」と考えがちですが、適度な運動は心機能の維持・向上と、フレイル予防の両方に効果的です。
患者様ごとに目標心拍数を設定し、病態や合併症に応じたウォーキング負荷などを個別に指導しています。
「どこまで動いていいか分からない」という不安を解消し、自信を持って日常生活を送れるようサポートします。

再入院を防ぐための日常生活での予防と自己管理

高齢者の心不全において最大の目標は、「再入院を防ぐこと」です。入院を繰り返すたびに、フレイルや認知症が悪化し、一気に寿命を縮めてしまう可能性もあります。
入院を繰り返すたびに状態は悪化していくため、退院後の自己管理が非常に重要です。
日常生活で心がけたいポイントは以下の通りです。

  • 毎日同じ時間に体重を測る、急激な増加は水分貯留のサイン。
  • 減塩を継続する、外食・加工食品の摂り過ぎに注意する。
  • 自己判断で処方された薬を中断しない。
  • 感染症は心不全悪化の主要な誘因の一つのため、風邪・感染症に早めに対処する。
  • 肺炎球菌ワクチンなどの予防接種を受ける。
高齢者の心不全の3本柱と自己管理のイラスト