肌トラブルのある女性のイラスト皮膚疾患とは、皮膚に生じるさまざまな異常や病気の総称です。通常、皮膚は体の最も外側の組織でバリアとして体を守る役割を果たしています。
しかし、皮膚がさまざまな刺激や接触を受け、そこに体質的な要因などが加わることで、肌トラブルと呼ばれるシミやニキビからアトピー性皮膚炎や皮膚掻痒症など、軽度な症状から重度な症状までさまざまな皮膚疾患が発生します。

皮膚疾患の特徴

  • 強いかゆみや痛みなどの不快な症状。
  • 発疹、発赤、腫れなどの患部に赤みがあり炎症が強く出る症状。
  • ジュクジュクと患部が湿った症状。夏季などに現れやすい。
  • カサカサと乾燥した皮膚。症状が慢性化すると体内の「血」が不足し、カサカサした症状になる。
  • 急性的な症状だけでなく慢性化する疾患も多くある。

皮膚疾患の治療として西洋医薬の塗り薬や飲み薬が使用されるのは良く知られていますが、漢方薬にも皮膚疾患に効果を示すものが多くあります。
近年、皮膚疾患の治療に漢方薬の処方を希望される患者様も増えています。

本記事では、城内病院の漢方専門医が、皮膚疾患に漢方薬あるいは西洋医薬、またはその両方を処方するケースにおいて、どのような漢方医学視点を用いて患者様を診断するかを解説します。
また、皮膚疾患に効果がある代表的な漢方薬も紹介します。

漢方医学における皮膚疾患のとらえ方

漢方医学では、皮膚疾患を表面的な問題だけではなく、体内の「気・血・水」のバランスが崩れた状態の現れと捉えます。「皮膚は内臓の鏡」という考え方があり、皮膚の状態が内臓の機能やバランスを反映していると考えられています。

漢方医学視点から考えられている皮膚疾患の主な原因

  • 内臓の不調:内臓機能の低下・乱れが皮膚に影響を与える。肝臓、脾臓、肺の機能低下が皮膚疾患と関連していると考えられている。
  • 「気・血・水」のバランス崩れ:漢方医学では体内を巡る「気・血・水」のバランスが重要とされる。バランスが崩れることで、皮膚に様々な症状が現れる。
  • 熱の蓄積:体内に「熱」が蓄積すると、それが皮膚に現れて炎症や痒みを引き起こすとされる。
  • 体質的な要因:生来の体質や長年の生活習慣が、皮膚疾患の要因となることがある。
  • 外的要因:環境の変化、ストレス、偏った食生活などで体内の「気・血・水」のバランスが崩れると、皮膚疾患が生じることがある。

漢方医学視点での皮膚疾患の治療 ~標治と本治~

漢方医学には、「標治と本治」という治療における考え方があります。
「標治」とは今起こっている主症状を治療する対症療法のこと、「本治」とは病気の元となる体質を改善する根本的な治療のことをいいます。

この漢方の「標治と本治」を皮膚疾患の治療に当てはめると、皮膚表面に現れた症状を治療するのが「標治」、体内の崩れた「気・血・水」のバランスを修復して体質改善を図ることで皮膚疾患の原因を解消することが「本治」ということになります。

城内病院漢方専門医が皮膚疾患を治療する際には、皮膚の疾患部分がカサカサなのか、強いかゆみがあるか、赤くなっているか、ジュクジュ湿っているか、などをよく観察します。
そしてその皮膚の状態を治癒するには、「どの治療法や薬を選択すれば効果的であるか」を考えます。

西洋医薬だけで治癒するのか、漢方薬で「標治」を目指すのか、漢方薬で「標治」したうえで、体内の崩れた「気・血・水」のバランスを修復する「本治」で皮膚疾患にならないように体質を改善するのか、あるいは西洋医薬と漢方薬を併用すべきか、などと様々な選択肢から、患者様の皮膚疾患に適した治療を選択します。

皮膚疾患に漢方薬を処方する際の城内病院漢方専門医のプロトコル(手順)

城内病院漢方専門医は、患者様それぞれ異なる体質・体力・抵抗力・自覚症状などの生体反応に現れる病態、また「気・血・水」の滞りや偏りを把握することで、患者様の「証」を特定します。

患者様の「証」を特定したうえで、皮膚疾患部位の状態・症状の程度、慢性化・苔癬化の有無、患者様の年齢・性別・体力・日常生活環境など、診断で現れた1つ1つのパラメータ(西洋医学視点、漢方医学視点を含む)を総合的に判断して、「標治・本治」が可能で患者様にオーダーメイドな漢方薬を処方します。

皮膚疾患に処方される代表的な漢方薬

  • 消風散(しょうふうさん)
    患部の赤みやかゆみが強く、分泌液が多いジュクジュクした湿疹・皮膚炎に用いられる漢方薬。「水」と「血」をめぐらせることで皮膚の熱を冷まし、かゆみが強く分泌液の多い湿疹・皮膚炎を改善。
    体力中等度以上の人の皮膚疾患で、かゆみが強くて分泌物が多く、ときに局所の熱感があるものの次の諸症:湿疹・皮膚炎、じんましん、水虫、あせも。
  • 桂枝茯苓丸料加薏苡仁(けいしぶくりょうがんりょうかよくいにん)
    「血」のめぐりが悪く、しみ、にきびに悩む方向けの漢方薬。「血」のめぐりを良くして、肌に栄養がいきわたるようにする。
    比較的体力があり、ときに下腹部痛、肩こり、頭重、めまい、のぼせて足冷えなどを訴えるものの次の諸症:にきび、しみ、手足のあれ(手足の湿疹・皮膚炎)、月経不順、血の道症。
  • 当帰飲子(とうきいんし)
    乾燥肌や皮膚のかゆみに悩む方向けの漢方薬。肌に栄養分とうるおいを与え、乾燥肌を改善する。
    体力中等度以下で、冷え症で、皮膚が乾燥するものの次の諸症:湿疹・皮膚炎(分泌物の少ないもの)、かゆみ。
  • 十味敗毒湯(じゅうみはいどくとう)
    皮膚炎など、化膿しやすい人向けの漢方薬。ジュクジュク湿って患部や海が出るような皮膚症状を改善。
    体力中等度なものの皮膚疾患で、発赤があり、ときに化膿するものの次の諸症:化膿性皮膚疾患・急性皮膚疾患の初期、じんましん、湿疹・皮膚炎、水虫。
  • 温清飲(うんせいいん)
    炎症を鎮める働きのある漢方薬「黄連解毒湯」に「血」を補う「四物湯」が合わさった漢方薬。余分な熱を取り、赤みやかゆみのもととなる炎症を鎮める。全身に「血」を補うことで肌の乾燥をやわらげる。
    体力中等度で、皮膚はかさかさして色つやが悪く、のぼせるものの次の諸症:月経不順、月経困難、血の道症、更年期障害、神経症、湿疹・皮膚炎。