「アキレス腱が痛くて思ったようなパフォーマンスが発揮できない」と、部活動をしている中高生やアスリートが来院されるケースは多くあります。
今回は、アキレス腱が痛む1つの原因であるアキレス腱付着部症について解説します。
ふくらはぎの筋肉の腱であるアキレス腱に炎症が生じた状態をアキレス腱炎と総じて呼びますが、アキレス腱が痛い疾患は、大きく分けて「付着部症」と「非付着部症」に分類されます。
アキレス腱付着部症とは、アキレス腱とかかとが付着している周辺部分に痛みが生じる疾患です。
繰り返し負荷がかかることで、アキレス腱が付着しているかかとの骨周辺が変性して痛みが生じるようになります。腱・靭帯付着部症(エンテソパチー)のひとつです。
アキレス腱付着部症の症状とは?
アキレス腱とかかとの骨の付着部周辺に痛みや腫れが生じます。
足首を上向きに曲げたときに強い痛みが生じるため、歩いている時や靴を履いている時などに痛みを覚えることが多いようです。
かかとが深い構造の靴を履くことで摩擦が生じ悪化することもあります。より悪化すると安静時にも痛みが続くようになります。
スポーツ競技者のケースでは、初期は痛みも軽微なため治療することなくスポーツを継続しがちです。しかし、時間が経過していくうちにパフォーマンスに影響を及ぼすまでに症状は悪化してしまいます。
一旦、症状が悪化してしまうと、治療を続けてもなかなか治りにくく、以前のようなパフォーマンスを取り戻すことは難しくなります。
アキレス腱付着部症の原因と病態
ふくらはぎの筋肉が足首付近で腱になり、かかとの骨に付着しているアキレス腱。人体の腱の中で最も大きくて強いアキレス腱は、歩行時やジャンプ時に筋肉の力をそのまま伝える働きをする腱です。
アキレス腱付着部症の原因は、スポーツや仕事によるオーバーユース(使いすぎ)が主で、他にはかかとの骨や足の形の異常、筋肉の柔軟性低下、不適切な靴を履くことで生じる摩擦などです。
運動時などにアキレス腱とかかとの骨の付着部に加わる強い引っ張る力、また引っ張られたときに腱と骨が接している部分に掛かる圧迫力。
オーバーユースでこれらの負荷が繰り返し加わることで、血流が少ないアキレス腱に小さな断裂が生じ、治らないうちにスポーツなどを続けて断裂を繰り返してしまいます。
断裂の繰り返しでアキレス腱とかかとの骨との付着部が変性し、痛みが生じるようになります。さらに進行すれば、肉芽形成、石灰化、骨棘(骨のトゲ)の形成などの組織の変化もあらわれます。
アキレス腱付着部症の診断と検査
問診にて、歩行時、階段昇降時や運動時など、どのような契機でどこがどれくらい痛むかを伺います。
次に、アキレス腱付着部周辺を押さえた時の痛み(圧痛)やつまんだ時の痛み(把持痛)、手で足首を上に曲げて強い痛みが生じるかを確認します。
X線検査にてかかとの骨折や変形、骨棘(骨のトゲ)の有無、必要であればMRIにてアキレス腱の断裂やかかとの骨の出っ張りと腱の間に滑液包炎がみられるかを確認します。
アキレス腱付着部症の治療とは?
アキレス腱付着部症の治療は保存的療法を基本とし、重症のケースや保存的療法で改善しなければ手術療法を選択することもあります。
アキレス腱付着部症の保存的療法
ストレッチ:ふくらはぎの筋肉やアキレス腱のストレッチ運動を1日2~3回行う。
装具療法:ヒールリフト装具・靴の中敷きで歩行時の腱の痛みと腱にかかる負荷を軽減する。
薬物療法:痛みの軽減を目的に非ステロイド系消炎鎮痛薬の経口剤や外用剤を使用。
ステロイド剤の局所注射:痛みが強い場合に使用することもある。腱の強度低下や断裂リスクを高めるため、使用には注意が必要。
アキレス腱付着部症の手術療法
重症のケースや保存的療法で改善しないケースでは手術療法を選択します。内視鏡を使った手術で、腱の変性した部位やかかとの骨の出っ張りを除去します。