野球肘とは、投球スポーツによって生じる肘の障害です。なかでも野球の投手に患者が多いために野球肘と呼ばれています。
肘の外側・内側・後側が投球時や投球後に痛み、肘の伸びや曲がりが悪くなり、急に動かせなくなることもあります。
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野球肘は、成長期の小中学生の野球投手に多く見られます。小学生の野球選手の20 %に野球肘が発症しています。
理由として考えられるのが、投球過多による肘のオーバーユースです。そのため肘関節付近に大人に比べて弱い成長軟骨がある小中学生では、肘に強い力がかかり続けることで野球肘を発症する可能性が高くなります。
おもな野球肘には、小中学生に多く見られる肘の内側に発症する内側型野球肘 (内側側副靭帯損傷)と、肘の外側に発症する外側型野球肘 (離断性骨軟骨炎)の2種類があります。
野球肘の症状とは?
野球肘は、投球時や投球後に肘に痛みが生じる疾患。また、肘の伸びや曲がりが悪くなること、急に動かせなくなるロッキング症状が現れることもあります。
内側型野球肘の症状
投球時の痛み、肘関節の可動域の制限、投球後の肘内側に痛みや腫が現れます。
外側型野球肘の症状
投球時の痛み、肘関節を急に動かせなくなるロッキング症状を生じることがあります。
成長期の肘に投球動作による強い力が繰り返しかかることで、骨同士がぶつかって骨変形を合併することもあります。また、骨と骨をつなぐ靭帯が損傷することもあります。
野球肘の原因と病態
野球肘の原因は、スポーツでの投球動作繰り返しによる肘のオーバーユースです。
速い球や変化球を投げるなどの投球動作自体が肘に強い負荷をかけます。さらに練習や試合では、肘に強い負担のかかる投球動作の繰り返しが必要となります。
肘の負担は1回の投球動作による負担×投球数となります。日々の練習や試合で、肘への負担による疲労が解消されることなく蓄積し続けると、骨や靭帯を破損してケガや故障がおこります。
肘関節は、上腕骨、橈骨、尺骨の3つの骨で構成されていて、それらをつなぐ靱帯が内側と外側にあります。
肘の内側に発症する内側型野球肘では、ボールを投げるときの引っ張る力によって、腱・成長軟骨の損傷や靭帯が引き伸ばされたりします。
肘の外側に発症する外側型野球肘 (離断性骨軟骨炎)では、圧迫により骨同士がぶつかって、骨や成長軟骨が剥がれ傷みます。
肘後方でも骨同士がぶつかり擦れておこる疲労骨折や成長軟骨の損傷が生じます。
野球肘の検査と診断について
部活動などで投球動作を繰り返す野球などのスポーツを行っている方が、投球時・投球後の肘の痛みや肘の動きが悪いと訴えられれば、野球肘を疑います。
検査では肘関節をX線(レントゲン)で撮影して骨の変化を確認します。また、靭帯・腱の損傷を確認するためにMRI撮影を行うこともあります。
野球肘の治療の基本は肘の安静を保つこと
肘の安静を保つために練習や試合での投球を休止する必要があります。個人差はありますが、約2~4週間の投球休止で復帰できます。
投球時や投球後に痛みがあるのに投球を続ければ、患部の悪化を招きます。より悪化して骨折や軟骨が剥がれるケースでは、手術が必要になることがあります。
手術は、骨に穴をあける方法、骨を釘のようにして移植する方法、肋軟骨や膝の軟骨を移植する方法などがあります。
肘内側の靭帯が損傷して機能不全になった場合には、非投球側から長掌筋腱を採取して靭帯を再建する手術を行います。
おもにプロ野球投手などのトップレベルのアスリートに施術するもので、一般的にトミー・ジョン手術として知られているものです。
野球肘の予防は投球数制限が重要
肘のオーバーユースが原因の多くを占めるので、予防のためには投球数制限が重要です。また、フォームの改善や疾患の早期発見も予防法となります。
- 投球数制限:1日・1週での投球数を制限する。小学生1日50球以内、週200球以内。中学生1日70球以内、週350球以内。高校生1日100球以内、週500球以内が望ましい。
- フォームの改善:負担の少ないフォームで肘への負担を減らす。肘を一番後ろに引いたときに肘が下がるフォームは肘への負担が大きい。
- 疾患の早期発見:投球時・投球後に痛みや違和感を覚えたら、なるべく早く病院で検査を受ける。放置して投げ続ければ、症状が悪化して手術が必要となることも。
イラスト出典:一般社団法人 日本手外科学会 手外科シリーズ18. 野球肘