医師のイラスト 漢方専門医があなたに漢方薬を処方するとき、あなたの「証」を特定しなければなりません。
あなたの「証」を特定するために必要な3つの要素「気・血・水」「六病位」「五臓」について詳しく見ていきましょう。

「気・血・水」の滞り・偏りが病気のもと

「気・血・水」の滞りや偏りを把握することは、あなたの「証」を特定するため要素の1つです。
漢方医学では、「気・血・水」が、体の中を滞りなく循環することで健康が維持されると考えます。

たとえば、経絡とよばれるルートを流れる「気」が十分に働いてこそ、「血」・「水」は活動性を増し循環します。逆に、「気」の力の低下は「血」・「水」の循環をを滞らせて、胃腸の力の低下や老化などの原因となります。

「気・血・水」が滞ったり偏ったりすることで、体に不調の症状が現れ病気になります。漢方専門医はあなたの状態を見極めたうえで、あなたにあわせた漢方薬を処方します。

「気・血・水」について

気(き)
元気の「気」。目には見えず形もないが働きはあるもの。 生命エネルギーのこと。元気が無い人には「気」を高める生薬を含む漢方薬を、体がほてりのぼせる症状の気逆には「気」を下げる漢方薬を処方。
血(けつ)
体の中を潤し栄養をあたえてくれる。脈管を流れる主に赤い血液のこと。血虚は体の中に栄養がなく皮膚自体が乾燥している状態。血虚には身体の隅々で組織となる「血」を与える漢方薬を処方。
水(すい)
おもに脈管を流れるリンパ液や細胞外の間質液など「血」以外の身体を潤す透明な体液。むくみやめまいを訴える人には「水」の滞りを推測、偏在した「水」の流れを解消する漢方薬を処方。

「気・血・水」の乱れが体と心の不調につながる

気の不調 気虚 疲れやすい・気力の低下・食欲不振・倦怠感など
気うつ・気滞 抑うつ気分・喉のつかえ感・腹部膨満感・呼吸困難など
気逆 のぼせ・頭痛・動悸・めまい・不安感など
血の不調 瘀血(おけつ) 月経異常・便秘・舌や唇の変色・不眠など
血虚 皮膚の乾燥・肌荒れ・脱毛・血行不良など
水の不調 水滞・水毒 むくみ・水太り・めまい・下痢・頭痛など

「六病位」は病気のステージを把握するものさし

西洋医学は、1つの病気に対して1つの治療法が施されます。それに対して、漢方医学はあなたの体力や病気に対する抵抗力と病態の変化を考慮して、人それぞれ異なる治療・漢方薬の処方を行います。

漢方医学には、病態の変化を6つの時期に分類する六病位という考え方があります。中国の古典医学書「傷寒論」に基づく考え方です。
「傷寒論」には急性の感染症(インフルエンザ、風邪など)を「傷寒」と名づけ、治療法や漢方薬の処方法が示されています。

疾患に対する生体の反応を把握して薬剤を選択する現代の漢方治療にとって、とくに六病位という考え方は急性の感染症に応用できると考えられています。
漢方専門医はあなたの病気のステージが六病位のどの段階であるか把握して、適切な漢方薬を処方します。

六病位の段階

陽病:基本的に発熱している状態、熱証。

太陽病
熱が体の表面にある病期。発熱・悪寒が同時にある。頭痛・関節痛・筋肉痛を伴う。
少陽病
熱が体の表面と深部の間にある時期。発熱と悪寒が交互に行き来する(往来寒熱)。食欲不振・胸脇苦満(脇腹からみぞおちにかけての抵抗感や張った感じ)・めまいなどを伴う。
陽明病
熱が消化管など体の深部にある時期。強い発熱・発汗を認めるようになり、意識がはっきりしないときも出てくる。腹部の膨満感・便秘などを伴う。

陰病:基本的に冷えている状態、寒証。

太陰病
体の深部に寒がある時期。陰病の始まりで胃腸系が冷えている状態。下痢・嘔吐・食欲不振があり、ぐったりしている。
少陰病
体の深部に寒がある時期。体の表面にも寒気を感じることがある。元気がなく、顔色が悪く、すぐに横になる状態。悪寒のみを訴え熱感がない。四肢冷感などを伴う。
厥陰病(けついんびょう)
臓腑機能が衰え、重篤な病状に陥った状態、意識レベルの低下、体温調節障害などが現れる時期。

「五臓」について ~体調変調の根源の場所~

中国では古来より内臓の働きを大きく5つに分けて考えてきました。
この5つは心、肝、脾、肺、腎という名前がつけられており「五臓」と呼ばれています。西洋医学の内臓理論と一致するところもありますが、不一致の面もかなりあります。

漢方の「五臓」は解剖的な意味合いよりも、人体の働きや機能を5つに分類したものです。また、「五臓」は独立した臓器ではなくお互いに助け、あるいはお互いに抑制しています。つまり、「五臓」は関連性を持ってバランスを保っていると考えられています。

「五臓」は「気・血・水」の代謝・生成を行う場所とされ、バランスが崩れると体調が変調し病気に至るため、体調変調の根源の場所とされています。
漢方専門医はあなたの身体のバランスを崩している原因の「五臓」を見つけ、あなたの「証」を特定する1つの要素とします。

「五臓」の役割

「五臓」は「気・血・水」の生成や代謝を行うところとされており、肝・心・脾・肺・腎に分けられています。

すべての臓腑が円滑に機能するように調節するとともに感情も調節する。体への影響部位としては筋・目・爪に現れる。
血液を送り出すポンプ作用を有するとともに、精神、意識、思考活動を調整する。体への影響部位としては舌・顔に現れる。
消化吸収を行うとともに血管壁の正常性を維持して、血液が血管外に漏れ出るのを防ぐ。体への影響部位としては肌肉・口・唇に現れる。
呼吸(皮膚・粘膜呼吸を含む)を行うとともに「気」「水」を全身にめぐらせる。体への影響部位としては鼻・皮(皮膚)・毛に現れる。
成長・発育・生殖の中枢であると同時に水分代謝を調節する。体への影響部位としては骨・耳・陰部・髪に現れる。